テテラという人
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リリューは、背中に女性を背負い、黙々と歩いた。
桃が、いてくれてよかった。
もしもの時は、すぐさま彼女が動いてくれる。
それに、何より。
「そう、あなたたちも遠くまで旅をしたのねぇ」
テテラと、穏やかな話を続けてくれるのだ。
彼女は、朝のうち少しは杖で歩く。
リリューの背中にばかり座っていると、もう一方の足が弱って歩けなくなってしまいそうだと言うのだ。
とてもとても、ゆっくりな足取り。
だが、これまで彼女は、そんな自分が足手まといであるという負い目を、口にしたことはなかった。
ありがとうとは言うけれども、自分を悲しんだり卑下したりしない。
ゆっくり歩くこと、そして、リリューに背負われること。
それら全てが、自分の仕事であるかのように。
ロジアの屋敷が燃え、そこへ懸命に向かう彼女を見つけた時も、そうだった。
「弟たちがね、言うのよ」
彼の背中にいる時、テテラは話してくれた。
「あんなひどい目にあったのに、家族はひとりも死ななかった。きっと、誰かの命の代わりに、姉さんの足は持って行かれたんだって」
めちゃくちゃな話だが、家族を思う気持ちはひしひしと伝わってくる。
足がないのは、家族の誰かの命の身代わりになったから。
彼女の足を見る度に、彼女を含めて家族はみな「全員生き延びることが出来てよかった」と思えるようになったのだ。
大ケガを負いながらも、見知らぬ子どもたちに言葉を教えたという女性の前向きな行動は、そんな家族たちに支えられていたからだろう。
「よく、家族が都行きを許してくれましたね」
桃の言葉に、テテラが笑った気がした。
背負っていると、彼女の表情は見ることが出来ないのだ。
「人が死ぬと太陽の側に行けるのなら、都に行けば、死んだロジア様に会えるかもしれない……ついでに、私の足にも会えるかもしれないわねって言ったら、みんな苦笑いしていたわ」
言いえて妙とは、このことだ。
都は、太陽の住まう町。
太陽の側ならば、ありえないことでも起きるのではないか。
そう、彼女は言うのだ。
両方が叶うといいと。
リリューは思った。