炎上
∞
火の手が、あがる。
みっつの火のうち、ひとつは桃が斬り伏せた。
ひとつは、伯母が。
そしてもうひとつ。
ハチに噛まれ、桃に火を落とされ、おそらく顔を傷つけられた人間は──腰に下げたありったけの爆弾を、建物の中へと放り込んだ。
まさに、火そのものに向かって。
あっ!
階段途中の伯母と、玄関側の桃がすべきことは、たったひとつ。
とにかく。
身を隠すこと。
桃は外の壁へと身を伏せた。
伏せながら。
男が駆け去る背を見た。
慌てて、腰を浮かせかけた次の瞬間。
ドドドドガドゴガガドゴォン!!!
いくつもの爆弾が、火に爆ぜる音と振動に、耳を塞ぐので精いっぱい。
玄関の重い扉がすっ飛ばされて、地面にどすんと落ちた。
その音は、おそらく町中に響き渡ったに違いない。
音がやみ、桃が玄関だったところからそっと中を見ると。
ホールの床や壁は大きくえぐられ、炎に包まれていた。
階段も、とても使える状態ではない。
二階への階段は──ここだけ。
そして、桃以外の人間は、全て上にいる。
「桃、裏へまわれ! ハチ! 桃についていけ!」
伯母の声が、炎の上から響き渡る。
いまから、中の人たちを逃がさなければならない。
桃が飛び降りた時よりは、もう少し柔らかい脱出方法が必要だ。
エンチェルクが、綱を用意していたはず。
「ハチ、おいで!」
桃は──駆け出した。