完璧
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「時間を稼いでいるようにしか見えんな」
ヤイクは、そうカラディに突きつけた。
話し合いという名の言葉の殴り合いが始まって、はや三日。
既に、ロジアは同席しているだけで、言葉を挟むこともやめてしまった。
「ああ、そうだ。時間稼ぎをしてるのさ……早く逃げた方がいいんじゃないか?」
まるで仲間を呼んでいるのだと、言わんばかり。
この屋敷の異物である、自分たちを抹殺するために。
モモの推測では、6人以上がこの国にいる。
彼らは、そのうちのまだ3人しか見たことがないのだ。
「さあて……本当に助けは来るのか?」
ヤイクは、無精ひげの男を見下す目を向けた。
「どう見ても、お前は全員を動かせる男には見えないがな」
容赦ない言葉にも、カラディは堪えているようには見えなかった。
「あのな……俺たち全員とまとめて交渉にしているつもりなら……大間違いだ。総意を、俺は話してるんじゃない。勘違いするな」
相当の個人主義者たちの、集まりなのだろう。
そんなことは、考えるだけでもうんざりだと言わんばかりだ。
「だが、言っとくぜ。誰かは既にこの屋敷でいま、何が起きているか気づいてる」
エンチェルクは、違和感を覚えた。
回りくどい表現だが、何故そんなことをわざわざ言葉にするのか。
「ああ……」
ヤイクは、嫌そうに視線を軽く天井へと向けた。
そして、応接室のソファから立ち上がった。
「そういう思考は、太陽の下では出ないだろうな」
彼は、今日の話はこれで終わりだと言わんばかりに、捨て台詞を残して出てゆく。
エンチェルクは、ゆっくり考えたい気持ちを脇に押しやり、後に続く。
ヤイクは──自室には、向かわなかった。
向かったのは。
キクとモモの部屋。
ノッカーを鳴らす。
赤ん坊の意味不明な声があがった後、「どうぞ」とキクが答えた。
モモもいる。
「近日中に、ここに襲撃が来る。覚悟をしておいてくれ」
それが。
ヤイクの出した答え。
※
「襲撃って……それが分かってるのに、ここにいるんですか?」
モモは、大きな矛盾の塊を、目の前に出す。
「両賭けした、博徒がいたんだよ」
ヤイクは、キクをちらりと見た。
彼女が、赤子を抱えているからだろう。
この中で、一番弱く小さな存在。
襲撃というものが、エンチェルクの想像通りのものであったとするならば、ジロウとキクが一番危ないのではないか。
「両賭け?」
賭博とは無縁のモモは、よく分からないように復唱する。
「両賭けしたって、賭けた人間は決して勝てない……だが、大負けもしない。ここの二人は、大負けをしない方向を選んだ」
ヤイクの言葉を要約すると。
「二人以外の人間と、私たちをぶつけて、生き残った方と交渉する、と言うことね」
エンチェルクは、口に出して整理することで、ようやく頭の中でつながった。
そんなことを仕掛けては、どちらとも関係が少し悪化するだろう。
だが、敵側にしてみれば、数少ない同国人。
こちら側にしてみれば、異国の情報源。
自分に利用価値があると知っているから、「せいぜい俺を奪い合って戦ってくれ」と思っているのか。
生き延びるために、これほどの策を使うのか。
「ロジアは……何か言ったか?」
キクが。
ふと、言葉を挟んだ。
エンチェルクが、いいえと答えると。
「そうか、では、ロジアも納得してるのだろう」
彼女は、微笑んだ。
カラディとロジアは、意見が一致して手を組んだということか。
「贅沢を言えば」
ヤイクは、キクとモモをそれぞれ交互に見た後。
こう言った。
「襲撃の時に、全てを完璧にこなしたい」
全てを?
完璧に?
襲撃を撃退するだけではなく、もっと協力しろ──そう言っているようにしか聞こえなかった。