表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/329

何を斬るか

 リリューと、向き合う。


 お互いに、真剣を構えて。


 桃は、まだ怖いままだった。


「リリュー……」


 伯母が、彼女の息子を呼ぶ。


 少し、咎める瞳だった。


 それまで、リリューには迷いがあった。


 抜いて構えてはいるけれども、桃に刃を向けることを望んではいなかったのだろう。


 だが、伯母の言葉は、リリューの瞳を変えた。


 覚悟を。


 覚悟を決めさせたのだ。


 きちんと、桃に向き合うのだ、と。


 そのまっすぐな瞳と刃の切っ先が、自分に向けられる。


 伯母が、何を自分にさせたいのか分からない。


 桃は、まだ戸惑ったまま。


 迷ったまま。


 リリューは、動かない。


 伯母ももう、何も言わない。


 このまま、きっと時間は動かないのだ。


 桃自身が、覚悟を決めるまで、この親子は根気強く待ち続けるのだろう。


 リリューの粘り強さは、よく分かっている。


 子供の頃から、この従兄はひたすらに木剣を振った。


 誰よりも長く、誰よりも多く。


『ダイに似たんだよ』


 伯母が、そんなことを言っていた。


 似るって。


 桃は、その時よく分からなかった。


 リリューは、二人の本当の子ではない。


 なのに、似ることなんかあるのだろうか。


 でも。


 覚悟を持って構えているその姿は。


 伯母に、とてもよく似ていた。



 ※



 決める覚悟とは、何だろう。


 桃は、刀を握っているだけで、そんなことを考えていた。


 リリューを斬る覚悟、ということなのか。


 そんな覚悟、決められるはずがない。


『キクは……戦い方ではなく、戦うための心を教えているはずだ』


 トーの言葉が、よみがえる。


 桃も、ちゃんと教えられているはずなのだ。


 彼女だって、一生懸命剣術を学んだのである。


 だが、剣術よりも別に目的があったこともまた、確かだった。


 強くなれば、旅に出られる日がいつか必ず来ると。


 だから、本当に学ばなければならなかったところを、桃はきっと身につけそこねたのだ。


 伯母を見た。


 伯母は、穏やかに自分を見ている。


 力の抜けた、しかし、決して緩んではいない自然な身体。


 ああ、そう。


 そういう形。


 ふぅと、息をつく。


 刀の柄を握り直す。


 一度、目を閉じる。


 ゆっくりと、開く。


 我慢強い従兄は、ブレひとつない姿でそこにいる。


 相手を、きちんと見る。


 リリューの、目を見る。


 静かな、しかし芯のある瞳。


『心を細くまっすぐに』


 伯母の言葉が、ひとつひとつ戻ってくる。


 斬り結ぶ前に、目の前の相手をきちんと見る。


 そして。


 何を斬るか決め、それを貫く。


 命を、身体を──あるいは、己自身を。


 そっか。


 桃は、ようやく分かった。


 私は。


 私を斬らなきゃいけないんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ