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夜道

 黒い月のかかる空、二人でゆっくりゆっくり歩いて、屋敷へと帰る。


「海に……潜ってきた」


 黙り込んだ従妹に、リリューは語りかけた。


 ずぶ濡れの理由。


「泳げたんだ」


 他のことを考えているような、少し気のない返事。


 モモの心が、どこかへ引っ張られている。


 まだ大きくではないが、遠い方向へ。


「ああ、身体が覚えていた……忘れていないものだな」


 リリューは。


 還るところを、見つけた。


 それは、自分だけ知っていればいいことだ。


 あの女性が、自分の手を引いて桟橋に連れて行ったのは、この町の生まれの彼には、あの墓石のことを知らせておかなければならないと思ったから。


「定兼の手入れをしなくちゃね……」


 モモが。


 月夜の下で、大人になっていく。


 彼女を大人にする何かが、今日おきた。


「ああ……母に笑われるな」


 自分も、子供の頃からの課題を、ひとつ乗り越えたのだ。


 母親にしがみついて助かった小さな自分は、心の奥の安らかな部分におさまった。


 モモもまた、父親を恋しがって泣く子供ではなく、その更に向こうへ行こうとしている。


 従兄妹という関係ではあるが、遠く離れてゆく道だったのだと分かった。


 お互いに、それぞれ伴侶を得てもおかしくない年だ。


 自分を成長させながらも、次の世代の準備をする時はもう、そう遠くはない。


「リリュー兄さんは……好きな人はいるの?」


 空気は、察しのいいモモに伝わってしまう。


 苦笑した。


 一瞬浮かんだ女性は、太陽の下で自分に微笑んではくれない。


 この感覚は、どうすればいいのだろう。


「好き、とは何だろうな?」


 モモに、つい問いかけてしまった。


「そう、なんだよねえ」


 モモもまた。


 考え込んでしまったようだ。


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