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エンチェル

「エンチェルク……彼らよ」


 自分を、大事にしない人間は、恐ろしい。


 エンチェルクは、モモに対してそう思ったのではない。


 桃の峰打ちを、躊躇なく腕で受けた男のことだ。


 もし、それが日本刀ではなく、この国の剣であったとしても、防具もない腕一本でどうして止められよう。


 人は、必ず己の身を守ろうとする。


 それを知っているからこそ、桃でさえ不意の拳を食らってしまったのだ。


 エンチェルクは、ぶらんと下がった男の腕を、嫌悪混じりに見つめた。


 これが──異国の人間だと。


 そう、モモが囁いたのだ。


 反射的に、彼女は二人の男を見ていた。


『彼ら』


 どちらか片方ではなく、両方。


 エンチェルクは、二人の顔をしっかりとその目に焼き付けようとしていた。


「モモ……もう二度と関わるな」


 無精ひげの男が、彼女に警告する。


 不思議な警告だった。


 そこに、彼自身の怒りや憎しみはなかったのだ。


 どちらかというと、もう一人の、全て髪を後ろに流した男と関わるな──そう言っているように見えた。


「リリュー兄さん……」


 まだ警戒を解かない身内に、モモがもう一度声をかける。


 そこでようやく、彼は姿勢を正した。


 モモもまた。


 彼らに、何か思うところがあるのだろう。


 リリューが手を出せば、二人を倒すことが出来るだろう。


 彼女は、それを望んでいないのだ。


 たとえ自分の身が、こうして傷つけられたとしても、だ。


「ありがとう……エンチェルク」


 少し落ち着いて来たのか、桃が支える自分に大丈夫だと言う。


 無精ひげの男が。


 こちらを。


 見た。


「エンチェル……ね」


 彼女の名前を、奇妙に呟いた後──もう一人を引っ張って、違う辻へと入っていったのだった。



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