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「モモ?」


 朝。


 リリューは、いつもの通り道場へ向かうために家を出たところで──従妹に出くわした。


 夜が明けてすぐ、走って来たのだろうか。


 肩で息をしながら、そこに立ちつくしている。


 何かあったのだろうか。


 問いかけようとするリリューより速く、モモが強く顔を上げる。


「菊おばさまは、いらっしゃいますか?」


 声には、妙に力が入っていて。


 いるもなにも。


 リリューが振り返ると、母が扉を開けて出てくるところだ。


 母もまた、道場へ向かうところだった。


「いるよ」


 扉越しに聞こえていたのだろう。


 母は、モモに重さを感じさせない声で答えた。


「母から……刀を受け取りました」


 ぐいっと突き出されるそれは、真新しい日本刀。


 ああ。


 彼女も、旅に出るのだ。


 身を守るための術として、帯刀が許されたのか。


 リリューは、自分の腰をちらりと見た。


 昨日まではなかったサダカネが、そこにはある。


「私は、未熟者だということが、刀を持って本当によく分かりました」


 モモは。


 彼女は、突然地面に刀を置くと、そのまま正座をして──頭を下げた。


「申し訳ありません! 私にはまだ覚悟が足りていません! この刀を、お返ししたく思います!」


 朝靄の中。


 武の賢者宅の庭先で。


 少女が、頭を下げて刀を返そうとする。


 そんな姪を、母は見つめた後。


「桃、リリュー」


 母は二人を呼んだ。


 突然、会話に巻き込まれたリリューは、何事かと驚いた。


「二人とも……刀を抜け」


 そして。


 とんでもないことを、言った。



 ※



「かあさん……」


 リリューは、母を止めようとした。


 母のすることには間違いがあるとは思っていないが、乱暴な方向に話が進んでいる気がしたのだ。


「私は丸腰だからな。リリュー……抜け」


 しかし、聞いちゃいない。


 丸腰であることが、自慢でもあるかのように息子に言い放つ。


「桃も、刀を持って立て」


 地面から顔を上げたモモは、驚きで言葉も出せない状態だ。


 気持ちは、よく分かった。


 彼女は、刀を持つことを恐れたのだ。


 それは、ただの飾りではない。


 何かあったら、抜かねばならない。


 抜いたならば、斬らねばならない。


 ようやく、モモはその意味を刀を持つことで理解したのだ。


 母が、サダカネを初めてリリューに触れさせた時。


 母は、刀を抜いてその刃を彼の腕にあてたのだ。


『覚えておけ。これが……刀だ』


 母は正確に、リリューの腕の表面を刃で引いた。


 あっと思う間もなく、自分の腕に赤い筋が浮かんだ。


 怖いとか痛いではなくて、リリューは驚いた。


 こんなにも簡単に、斬れてしまうのか、と。


 そのおかげだろう。


 彼の、刀への憧れが消えた。


 サダカネを受け取る時も、自分なりの覚悟が出来た気がする。


 なのに。


 その刃を。


 モモに向けろ、と。


「いいから、その刀を抜いて、両手でちゃんと持ってみろ」


 母は、姪に穏やかに語りかける。


 おそるおそる。


 モモは、刀を持って立ち上がった。


 そして。


 戸惑いながらも──ゆっくりと抜いた。

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