女というもの
∠
「ああ…何だ」
苦しげに目を開けたオリフレアが、一番最初にテルに言ったのは。
「テルがいるってことは……私はあの世に行きそこねたのね」
ながいながい、ため息の皮肉。
それは、彼女だけではなく、テルの唇からも洩れ落ちた。
彼の場合は、安堵の吐息だったが。
オリフレアは、領主の屋敷へと運び込まれた。
ついさっきまで、ハレも彼女のために金の光を送ってくれていたのだ。
光は、ふたつ必要だった。
ひとつは、オリフレアのため。
もうひとつは、おなかの子のため。
死の魔法を併用できる状態ではなく、ただイデアメリトスの兄弟は、短い髪で弱い生命の光を送ることしかできなかったのだ。
その光を、後押ししたのが──コーという女の歌声だった。
三人の努力の甲斐あってか、オリフレアが生命の光を少し強く取り戻すと、それに連動して、おなかの子の光も増えた。
ひとまずは、峠を越したようだ。
目を覚ましそうな気配に、ハレとコーは部屋を出て行った。
そして。
テルは、彼女と二人きりになったのだ。
知らないということは、罪だ。
妊娠中の女が、どれほど無防備になるのか、彼は何ひとつ知らなかったし、知ろうとしなかった。
孕ませさえすれば、子など勝手に生まれる。
頭のどこかに、そんな傲慢な考えがあった。
母のことを、思い出すべきだったのだ。
子を流し、死にかけた母のことを。
オリフレアは、能力的に強い人間だから、自分の身は自分で守れるなんて──どうして思ってしまったのか。
ここにいるのは、女なのだ。
世界中の命を産み落とした、女の中の一人なのだ。
そのたった一人の女を、自分は守れなかった。
幸運な偶然のおかげで、彼女は生き延びることが出来たが、その生と死の境目は、本当に細い糸一本分にすぎない。
「すまなかった……」
心の中にたまった血だまりを、吐き出すようにテルは言う。
「気持ち悪いこと言わないで」
オリフレアは──うんざりした顔で答えた。