理想的な人物
∠
「さすが、ウメは飛脚に顔が効くな」
報告に来たエンチェルクを前に、テルは感心した。
港町の情報を手に入れる方法として、彼はモモに依頼をしたが、その他に港町の飛脚を運営している商人の情報も欲していたのだ。
そんなテルの望みを、エンチェルクもよく分かってきたようで。
かゆいところに手が届く仕事を、してきてくれた。
そして出てきたのが──珍しい経歴を持つ、しかも、女だったのだ。
ロジアルバルハースフィム。
領主の愛人にして、飛脚問屋の女主人。
まだ、年齢は30を過ぎたばかり。
商才と慈善、という噛み合いにくい要素をあわせもっているという。
その人気たるや、近隣にまで届くほど、というからたいしたものだ。
領主の次に、話を聞くべき人間であることは、間違いなかった。
既に、モモはおそらく接触しているだろう。
それほどの有名人であれば、嫌でも耳に入るに違いない。
「面白そうな女性ですね」
ヤイクは、興味を示した。
「しかし、あの村の穀物を手に入れた人間像とも、一致するのもまた、確かですが」
群島との小さな貿易についても、報告を受けていた。
それが、ヤイクにひっかかったのだろう。
「彼女は、20年前の事件で被災しています。その時に、顔に火傷を負ったとか……」
エンチェルクは、テルに向かってそう追加した。
だが、実際はヤイクの言葉に意見しているのだ。
だから、ロジアという女は、この国に入り込んだ虫とは言えないのではないか、と。
さて。
テルは、何も言わずに待った。
ヤイクが、どう答えるかに興味があったのだ。
「本人が、虫である必要はない。虫の願いを聞くだけでも、同じことは出来るのだからな」
操るには理想的な人物だと──彼は、そう言っているのだ。
エンチェルクは。
ぐうの音も、出ないようだった。




