喜びの再会
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エンチェルクは、モモと共に都への帰路についていた。
これから、彼女が都と太陽の子をつなぐ仕事をするのだ。
その重要な使命を、エンチェルクは喜んで受けた。
まず、見て聞くのだ。
そして、自分の中でしっかりと咀嚼する。
他の事象と突き合わせ、そして、結論を出す。
答え合わせは、テルやヤイクに報告をすれば、そこで出来るだろう。
彼らの手足に、なるのだ。
そのために、エンチェルクは都へ帰ってきたのである。
そして。
これから、ウメに会う。
かつての自分のように、彼女につきっきりではいられなくなるだろう。
そんなことを、ウメが気にするはずはない。
それどころか、きっと喜んでエンチェルクの仕事を応援してくれる。
分かっている、分かっているのだ。
この国のために生きようと、彼女は思ったのだから。
ウメもまた、同じように思って生きてきたはず。
だから。
その道は、結果的には彼女と同じ道になるはず。
分かっているというのに、エンチェルクは往生際悪く、何度も何度も回転する思考を止められずにいた。
昔の自分に、別れを告げるということは。
その決別を、確実なものにすることが、ウメとの再会であるという皮肉は、彼女の勇気を多数かき集めなければならないことだったのだ。
モモと一緒でよかった。
彼女の歩く速度で、自分も歩くだけでいい。
そうすれば、内畑が見えてくる。
その間の小道を歩き、道場の脇の家に行けばいいのだ。
白い髪が、ぴょこりと道場の影から覗く。
「桃ー!! エンチェルクイーヌルト!!」
その女性の声は、とてもとても大きく、喜びに満ち溢れていた。
ああ。
そんなに大きな声を出したら。
エンチェルクの心配など、遅すぎるだけだった。
白い髪の後から、女性が現れる。
遠目でも、見間違うはずなどない。
まっすぐに立つ、たおやかなあの女性を。
※
「お帰りなさい、エンチェルク」
ウメは、嬉しそうに目を細めた。
「ただいま帰りました」
エンチェルクも、自然に笑みを浮かべていた。
距離感の計りづらい人ではあるが、彼女は冷たい人ではない。
それどころか、これほど自分に対して愛情と親密さを感じる気を、発してくれているではないか。
まるで、深い友達のような、あるいは家族に近いような。
「痩せましたね」
気になることと言えば、そのくらいか。
理由は、モモから聞いていたいたものの、そこは自己管理で何とでも出来るはずだ。
「ええ、桃にも叱られたわ……いまは、必ずコーが空腹を訴えるから大丈夫よ」
桃の脇から、ひょこっと顔を出す白い髪の女性。
前に見た時と変わったことと言えば、髪が全て真っ白になったくらいか。
だが、本当に変わったのは見た目ではなく。
「梅は、『おなかがすきましたね』、とは言わないので困ります」
彼女が、天真爛漫にそう言った瞬間。
エンチェルクは、ぎょっとしたし、モモもそうだった。
綺麗な言葉を使っているという、事実で驚いたわけではない。
彼女がウメの真似をして言った、『おなかがすきましたね』という言葉の部分が──ウメそのものの声で聞こえたからだ。
そんな二人に、本物の声の持ち主が苦笑を浮かべる。
「トーに習っている内に、人の声も動物の鳴き声も使えるようになってしまったのよ」
そっくりそのままの音を出すという。
そ、それは。
一瞬だけエンチェルクは、彼女の声がとても利用価値が高いという考え方をしてしまって、慌てて止めなければならなかった。
「ウメ……その癖は、あえて抑えるようにさせた方がいいと思います」
ヤイクやテルに知られる前に。
国のために働くとは考えたが、何もかも利用して、ということは考えていない。
コーは、微妙な立場の人間だからこそ、隠しておいた方がいいこともあるのだ。
彼女のためにも。
そうしたら。
ウメが、嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、そうした方がいいわね」
何が──嬉しかったのだろうか。




