表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/329

喜びの再会

 エンチェルクは、モモと共に都への帰路についていた。


 これから、彼女が都と太陽の子をつなぐ仕事をするのだ。


 その重要な使命を、エンチェルクは喜んで受けた。


 まず、見て聞くのだ。


 そして、自分の中でしっかりと咀嚼する。


 他の事象と突き合わせ、そして、結論を出す。


 答え合わせは、テルやヤイクに報告をすれば、そこで出来るだろう。


 彼らの手足に、なるのだ。


 そのために、エンチェルクは都へ帰ってきたのである。


 そして。


 これから、ウメに会う。


 かつての自分のように、彼女につきっきりではいられなくなるだろう。


 そんなことを、ウメが気にするはずはない。


 それどころか、きっと喜んでエンチェルクの仕事を応援してくれる。


 分かっている、分かっているのだ。


 この国のために生きようと、彼女は思ったのだから。


 ウメもまた、同じように思って生きてきたはず。


 だから。


 その道は、結果的には彼女と同じ道になるはず。


 分かっているというのに、エンチェルクは往生際悪く、何度も何度も回転する思考を止められずにいた。


 昔の自分に、別れを告げるということは。


 その決別を、確実なものにすることが、ウメとの再会であるという皮肉は、彼女の勇気を多数かき集めなければならないことだったのだ。


 モモと一緒でよかった。


 彼女の歩く速度で、自分も歩くだけでいい。


 そうすれば、内畑が見えてくる。


 その間の小道を歩き、道場の脇の家に行けばいいのだ。


 白い髪が、ぴょこりと道場の影から覗く。


「桃ー!! エンチェルクイーヌルト!!」


 その女性の声は、とてもとても大きく、喜びに満ち溢れていた。


 ああ。


 そんなに大きな声を出したら。


 エンチェルクの心配など、遅すぎるだけだった。


 白い髪の後から、女性が現れる。


 遠目でも、見間違うはずなどない。


 まっすぐに立つ、たおやかなあの女性を。


 ※



「お帰りなさい、エンチェルク」


 ウメは、嬉しそうに目を細めた。


「ただいま帰りました」


 エンチェルクも、自然に笑みを浮かべていた。


 距離感の計りづらい人ではあるが、彼女は冷たい人ではない。


 それどころか、これほど自分に対して愛情と親密さを感じる気を、発してくれているではないか。


 まるで、深い友達のような、あるいは家族に近いような。


「痩せましたね」


 気になることと言えば、そのくらいか。


 理由は、モモから聞いていたいたものの、そこは自己管理で何とでも出来るはずだ。


「ええ、桃にも叱られたわ……いまは、必ずコーが空腹を訴えるから大丈夫よ」


 桃の脇から、ひょこっと顔を出す白い髪の女性。


 前に見た時と変わったことと言えば、髪が全て真っ白になったくらいか。


 だが、本当に変わったのは見た目ではなく。


「梅は、『おなかがすきましたね』、とは言わないので困ります」


 彼女が、天真爛漫にそう言った瞬間。


 エンチェルクは、ぎょっとしたし、モモもそうだった。


 綺麗な言葉を使っているという、事実で驚いたわけではない。


 彼女がウメの真似をして言った、『おなかがすきましたね』という言葉の部分が──ウメそのものの声で聞こえたからだ。


 そんな二人に、本物の声の持ち主が苦笑を浮かべる。


「トーに習っている内に、人の声も動物の鳴き声も使えるようになってしまったのよ」


 そっくりそのままの音を出すという。


 そ、それは。


 一瞬だけエンチェルクは、彼女の声がとても利用価値が高いという考え方をしてしまって、慌てて止めなければならなかった。


「ウメ……その癖は、あえて抑えるようにさせた方がいいと思います」


 ヤイクやテルに知られる前に。


 国のために働くとは考えたが、何もかも利用して、ということは考えていない。


 コーは、微妙な立場の人間だからこそ、隠しておいた方がいいこともあるのだ。


 彼女のためにも。


 そうしたら。


 ウメが、嬉しそうに微笑んだ。


「ええ、そうした方がいいわね」


 何が──嬉しかったのだろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ