急ぎたくなかった
∴
コーは、来なかった。
その事実で、本当はハレには十分だったのだ。
モモにもついてくることをせず、自分にも会いにこなかったのだから。
『この世で、たった二人だけの仲間』
彼女は、そう二人のことを表現した。
それは、本当のことで。
そして。
自分は、その二人に割り込むことなど出来ないのだと。
そう、モモに言われたのだ。
逆に言えば。
彼女もまた、割り込めないでいるのだろう。
コーは、特別な人に出会ってしまった。
その運命は変えられるものではなかったし、予感もちゃんとあった。
ハレは、のんびりしすぎたのだ。
テルに宣言しておけば、それで安心というわけではなかったというのに。
だが。
コー相手に、急ぎたくなかった。
ひとつずつ、ひとつずつ、彼女がこの世のことわりを知り、ハレを知り、そして大事にあたためていきたかったのだ。
だが。
彼女のためと手放した。
ウメとトーという教師を持つ彼女は、次に会う時はとてつもなく成長していることだろう。
そして、言われるのか。
『コーと申します、どうぞよろしくお願い致します』と。
ハレは、頭を振った。
ノッカーが鳴ったのだ。
テルが、入ってきた。
話し合わなければならないことが、いろいろあった。
ハレは、一度目を閉じて。
網膜の裏に焼きついているコーの笑顔を消して、弟に向き直るのだった。