子供レベル
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報告に来ていたモモが、リリューの部屋のノッカーを鳴らした。
もうハレとの話は終わったのだろうか。
「リリュー兄さん……ちょっと話が」
彼の呑気な反応よりも、モモの表情は神妙なものだった。
何かあったようだ。
「菊おばさまが……」
まさかまさかの──母の話だった。
「菊おばさまが、いま動けない状態らしくて……母が心配しているの」
動けない!?
あの母が!?
思わず、リリューは桃をまじまじと見つめてしまった。
驚いたのだ。
彼女が嘘を言っているとは思えないが、どうしても信じられなかった。
まだ、母が『死んだ』と聞いた方が納得しただろう。
つらい納得ではあっても、だ。
「一体どうして?」
その問いは、自然なものだった。
「菊おばさまは……」
モモの、神妙な表情が近付いてくる。
直後。
「おばさまは……子供を産んだんですって」
彼女は、満面の笑顔になった。
は?
「おばさまったら、妊娠しているのにも気づかずに、旅に出ちゃって……戻るに戻れなくなって、遠くで出産したって」
差し出された母の手紙は、見事な異国の文字で書かれたものの横に、蛇ののたくったようなこの国の言葉が並んでいる。
読めない文字には、長く詳細に記されているようだが、この国の言葉では、ただこう記されていた。
『こどもうんだ。しばらくうごけない』
母は──この国の文字を、子供レベルでしか書けない人だった。