持て余す
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テルが、領主の屋敷に入った。
彼が、既にオリフレアの屋敷に滞在しているという話は聞いていたが、随分とゆっくりしてきたものだ。
オリフレアの屋敷か。
ハレも、彼女の家の温室をゆっくり見に行きたかった。
だが、テルが滞在している間は、訪問を遠慮した方がいい気がしたのだ。
弟は、暇つぶしにオリフレアの家を訪ねるような人間ではない。
温室に興味があるわけでもない。
あるとするならば、オリフレア自身。
そんな二人の邪魔をするほど、ハレは野暮な人間ではなかった。
「よぉ」
また少し、テルの顔つきが変わった気がした。
男っぷりの良さと、少しの悪さが人相ににじみ出て来ている。
本当に、祖父に似てきたものだ。
ハレは、弟の成長を苦笑と共に受け入れた。
「オリフレアリックシズは、元気だったかい?」
そして、少しのひやかしを。
「あいつには、元気でいてもらわなければ困る」
そんな言葉など、テルにはそよ風にも感じないようだが。
それどころか、彼女に対してどっしりとした安定感のようなものを感じた。
「都に帰ったら忙しくなる……祭りなんぞに時間を取られるのが惜しいくらいだ」
そんな弟の言葉に、ハレはようやく理解した。
何故、彼が『いま』オリフレアの屋敷に寄って来たのか。
ある程度分かっていたが、何故『いま』なのか。
それだけは、ハレには分からなかった。
そうか。
いまが、無理矢理に暇な時期だからか。
分かれば分かるほど、苦笑がわいてくる。
テルにとっての色恋は、人生の隙間でこなすものなのだと。
自分を律し、自分の人生を思う形で構築しようとしている男だからこそ、弟は愛を無視しないものの、愛には溺れないのだ。
ハレは。
愛を持て余している。
コーは、ここにはいない。
もう彼女は、トーと出会っただろうか。
そう、思いを馳せずにはいられなくなる頃──モモがやってきた。