ホックス
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「どきどきする」
リリューの隣で、モモが何度も深呼吸をする。
今日は、初顔合わせの日だ。
本当ならば、頭数に入らないモモは同席しなくてもよいのだが、ハレが特別に呼んだのである。
宮殿の東翼。
案内された殿下の部屋に入ると、二人の人間が既にいた。
一人は、ハレ本人。
もう一人は、見知らぬ青年だった。
おそらく、彼がもう一人の従者になるのか。
文官役の貴族の子に違いない。
リリューが、一番懸念している男だった。
ハレ自身のひととなりは、これまでの経緯で大体把握はしたし、モモは今更だろう。
問題は、一番難しい立場のこの男。
彼は、二人を睨むように見ている。
気難しそうな眉間。
「紹介しよう」
ハレは、柔らかく微笑みながら、文官役を紹介した。
ホックスタンディーセム。
貴族の家名も伝えられはしたが、リリューには聞き覚えがなかった。
「リリュールーセンタスです、どうぞよろしく」
「もっ……桃と申します。どうぞよしなに」
二人の挨拶に、彼──ホックスは、しかめっ面のまま軽く頷くだけ。
興味を示す様子はなかった。
だが、逆にその興味を示さない様子が、リリューの気になるところでもあって。
不思議だな。
普通の身分の人間でも、初めてモモに挨拶をされると、名前を聞き返すのだ。
その、余りの短さに。
もしかして。
ホックスは、実は貴族然とした態度を取っているのではなく。
本当に、彼らに興味がないのではないだろうか。
リリューには、そう感じられた。