ヤマモト対決
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19日の朝は──とても静かだ。
こんな日に外で稽古など、世間一般では許されないのかもしれない。
リリューは、身支度を整えながら、ようやく日の昇りかけた裏庭に出た。
背の高い三人を、そこに見た時。
彼は、ふっと微笑んでいた。
一目で、みなが同じ血のつながりの中にあることが分かったのだ。
モモと、二人の男。
彼女の──家族。
家族は、『作る』ものだと母がいった。
『ある』ものではないと。
けれど、この一瞬だけは。
リリューは、血というものに微かな憧憬を覚えたのだ。
「おはよう、リリュールーセンタス……キク先生の息子だそうだね」
「おはようございます、そうです」
都を離れていてなお、しっかりと整えられ続けた身体。
「木剣だが、手合わせをお願い出来るかな?」
モモの父が、息子らしい若い男から木剣を2本受け取る。
その1本を、自分へと差し出すのだ。
「喜んで」
受け取る。
使いこまれた木剣だ。
わざわざ、自分の屋敷から持ってきたのだろうか。
おそらく、親子で稽古でもしているのだろう。
握り心地を確かめた後。
お互い、ヤマモト式に礼を交わす。
大きいな。
自分より、少しだが背の高い人間を相手にするのは、久しぶりだろう。
もはや彼は、父と同じほどの背になってしまったから。
お互いの木剣がへこむのではないかと思えるほど、最初の一撃は強烈だった。
びりっと強い振動が、全身に伝わる。
「素晴らしい手ごたえだ」
本当に真剣な瞳と声が、そう間近で呟かれた。
長い間、彼も待っていたのだろう。
対等に、刀を交わせる日を。