夫人の事情
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ハレがしたためた、母への紹介状をもらって、ジリアンは屋敷へと帰っていった。
そう遠からず、彼女は都に来ることになるだろう。
それは、ハレよりずっと早いかもしれない。
荷馬車で、そして彼らとは違う近道を行くのだから。
そして、ハレたちは太陽の実の味を忘れがたく思いながらも、帰路につくのだ。
穏やかな旅路だった。
おそらく後から来るであろうテルに、追いつかれることもないほど、彼らは安全に旅を続けたのだ。
「早かったですね」
その光景に、ホックスは少し感慨深そうだ。
イエンタラスー夫人の屋敷が見える。
この帰路の、折り返しといってもいい町だった。
彼らは、往路と同じように歓待を受けたが、少し状況が変わっていた。
「行かせるべきだと、思いましたの」
夫人は穏やかに、しかし、少し寂しそうにそう言った。
ある日。
男が二人、彼女の屋敷にやってきた。
どちらも夫人にとっては、面識のある男で。
彼らは、この家の跡取りを連れて行きたいと言ったのだ。
「貴方様が……手配してくださったのでしょう?」
夫人は、ハレを見た。
彼は、それに曖昧に微笑む。
手紙が、無事着いたのだ。
夫人の悩みの種である、養子の甘えを断ち切るには、その甘えが通じないところで精神的に鍛えられた方がよいだろうと。
そんな彼を迎えに来たのは。
「けれど……二人ともあんな頭になさってるなんて……一体どういうことでしょう」
ため息混じりの夫人に、ハレは笑みの息を吐き出した。
そう。
髪の毛のない、二人の男。
ハレの祖父と、リクパッシェルイルだった。