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安心

「あ、ええと……」


 村のはずれの木で止まったジリアンを前に、モモは呼吸を整えながら、かけるべき言葉を探そうとした。


「分かってますわ!」


 だが、言葉の能力は相手の方が長けていて。


 先に口火を切ったのは、ジリアンだった。


「分かってますわ! ひいおじいさまは、戯れな気持ちで私にあの木を下さると言っただけです。分かってます! 私が一人本気にして、あの木に片思いしてしまっただけです!」


 目の前の木は、太陽の木ではないというのに。


 それにしがみつくようにして、ジリアンの早口は炸裂した。


「どうせ、お父様やおじい様は、私をどこかに嫁にやっておしまいになるのです。そんなことは、最初から分かっているのです!」


 わあわあと、彼女は泣きじゃくった。


 知っていたのだ。


 全部知っていて、知りたくなかったのだ。


 桃は、領主の娘の不自由さを、いまこの場で知った。


 場合が場合であったならば、いま泣いているのはジリアンではなく、自分だった。


 桃もまた、公式ではないとは言え、領主の娘だ。


 母が、昔選択したかもしれないもののひとつに、いまのジリアンの姿があったのである。


 そう考えると、とても他人事とは思えなかった。


「あの……太陽妃様は、とても良い御方です」


 母の同胞のことを、桃は出来る限り思い出そうとした。


 ジリアンが相手では、きっと太陽妃の方がタジタジになってしまいそうな、穏やかで可愛らしい人。


「植物を、とても愛してらっしゃいます……御存知でしょう? あなたの太陽の木を植えたのは、あの御方ですよ?」


 彼女の屋敷へ行く前に聞いた、ハレとホックスの話は──ジリアンの動きを止めた。


「ああ……そうだわ。あの木は、太陽妃様が植えたんだったわ」


 涙でぐしゃぐしゃの顔を、桃の方へ向ける。


 この世の終わりの向こう側に、ほんの少しの光明を見出した瞳。


「ええ……ですから、きっと太陽妃様は、あなたを悪いようにはなさらないでしょう」


 言葉に。


 ジリアンは、尚更顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。


 きっと。


 安心したのだ。



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