安心
∞
「あ、ええと……」
村のはずれの木で止まったジリアンを前に、モモは呼吸を整えながら、かけるべき言葉を探そうとした。
「分かってますわ!」
だが、言葉の能力は相手の方が長けていて。
先に口火を切ったのは、ジリアンだった。
「分かってますわ! ひいおじいさまは、戯れな気持ちで私にあの木を下さると言っただけです。分かってます! 私が一人本気にして、あの木に片思いしてしまっただけです!」
目の前の木は、太陽の木ではないというのに。
それにしがみつくようにして、ジリアンの早口は炸裂した。
「どうせ、お父様やおじい様は、私をどこかに嫁にやっておしまいになるのです。そんなことは、最初から分かっているのです!」
わあわあと、彼女は泣きじゃくった。
知っていたのだ。
全部知っていて、知りたくなかったのだ。
桃は、領主の娘の不自由さを、いまこの場で知った。
場合が場合であったならば、いま泣いているのはジリアンではなく、自分だった。
桃もまた、公式ではないとは言え、領主の娘だ。
母が、昔選択したかもしれないもののひとつに、いまのジリアンの姿があったのである。
そう考えると、とても他人事とは思えなかった。
「あの……太陽妃様は、とても良い御方です」
母の同胞のことを、桃は出来る限り思い出そうとした。
ジリアンが相手では、きっと太陽妃の方がタジタジになってしまいそうな、穏やかで可愛らしい人。
「植物を、とても愛してらっしゃいます……御存知でしょう? あなたの太陽の木を植えたのは、あの御方ですよ?」
彼女の屋敷へ行く前に聞いた、ハレとホックスの話は──ジリアンの動きを止めた。
「ああ……そうだわ。あの木は、太陽妃様が植えたんだったわ」
涙でぐしゃぐしゃの顔を、桃の方へ向ける。
この世の終わりの向こう側に、ほんの少しの光明を見出した瞳。
「ええ……ですから、きっと太陽妃様は、あなたを悪いようにはなさらないでしょう」
言葉に。
ジリアンは、尚更顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
きっと。
安心したのだ。