表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/329

女性と20年前の因果

 ハレたちは、既に帰路についていた。


 太陽の木との対面は、二日で終わったのだ。


 セルディオウルヴ卿の孫娘──ジリアンは、ハレとホックスの好奇心を満足させた。


 彼女は、小さい時から曽祖父と太陽の木を育てていて、その成長記録を書面で残していたのだ。


 絵心のある子供だったのだろう。


 木の特徴を、それぞれの年ごとに絵で描いていた。


 母は、とても植物を愛しているが、残念ながら絵心はないようで。


 頭に焼き付いている植物の特徴や姿を、絵で表すことが出来ないのだ。


 学術的な絵を描ける人間も、これから必要になるだろう。


 植物だけではなく、建築、文化。


 その細部の記録を残すには、文字だけではどうしても限界があるのだ。


「殿下の母上と、話が合うのではありませんか?」


 ホックスが、ジリアンのことをそう評した。


 ハレも、そう思う。


 だが、太陽妃という立場の母が、遠距離の彼女の元を訪ねることは難しいだろう。


 逆ならば、可能かもしれない。


 ジリアンを、都へ招待するのだ。


 この国でただ一人の、太陽の木の専門家として。


 そんな彼女に、もっと太陽の木への造詣を深めてもらうために、ハレはひとつ伝えてきたことがあった。


 ジリアンの行動力と、祖父の甘さがあれば、近いうちにそれは叶うかもしれない。


 ハレは。


 そう、思っていた。


 近いうちに、と。


 だが。


「追いつきましたわ!」


 彼らを追い越そうとした荷馬車の後ろから、ジリアンがひょっこり顔を出したのだ。


 祖父の甘さは、ハレの予想を遥かに上回っていたのだろう。


「次の村ですわよね? お乗りになりません? そうですの。では、申し訳ありません、お先に失礼する無礼をお許し下さい」


 そして、風のように彼女の荷馬車は行ってしまうのだ。


 次の村。


 それは──太陽の花を、守る男の住む村。



 ※



 その女性は。


 ハレたちに、幸福を運ぶ使者となった。


 村に入る時、彼らは大勢の村人に感謝を持って迎えられたのだ。


 祭りの時と、同じような飾り付けを広場にしつらえて。


「よかった、ちょうど飾りつけが終わったところです。皆さんが来ると聞いたら、村の人たちが突然浮かれ始めて」


 ジリアンは、相変わらずの早口で、要点のつかみにくい言葉をハレに放り投げる。


 そんな彼女の向こうに。


 あの、男がいた。


 太陽の果実に魅入られた男。


「お待ち申しておりました。必ず、もう一度お立ち寄りいただけると信じてました」


 捧げられた大皿に並ぶのは──果実。


 完熟を、いまやまさに過ぎようとしている、甘い芳香の実が。


 その数は。


 3つではなかった。


 たくさんの実が美しく、そしていまにも崩れそうな不安の美をたたえていたのだ。


「あれから、ぽつぽつとつぼみが増え…20になりました。実もちょうど20あります」


 誇らしげな彼の言葉に、ハレは胸を締め付けられた。


 この男は。


 20のつぼみに、20の実をつけたのだ。


 ひとつひとつ丁寧に、受粉させていったのだろう。


 そして、すべての実を、彼が来るまでもぎ取ることなく、ぎりぎりまで待っていたのだ。


 どれほどの、自制心と熱意がそこに必要だったか。


 これほどまでに完熟し、果物としての価値が下がる直前まで待ったのだ。


 ジリアンに、彼らの到来を聞いて、慌ててもぎに行ったのだろう。


 彼女には、この男のことを伝えていたから。


 太陽の木の成木を、ジリアンが見たいのではないかと思ったから。


 たった20。


 村人は多く、その味を楽しめるのを、いまかいまかと待っている。


 いや、すばらしき20だ。


 ハレは。


 皆と、この実をほんのわずかずつ分け合うのだ。


 20年前。


 父が、この男の心に植えた太陽の木の因果は、こうしてハレに巡ってきたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ