半分は本当で半分は嘘
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ハレは、自分の側仕えの貴族の子らを集めていた。
あと一人、文官役を彼は選ばなければならなかったのだ。
皆、それを分かっているのか、緊張した面持ちでハレを見ている。
彼が取った選抜の方式は、問答だった。
次々と、国、まつりごと、学問などの質問を浴びせる。
その中に、ハレはさりげなく、夜や月の話題を混ぜた。
一人、その中で面白い答えを返す者がいた。
「夜、ですか……謎に包まれていますね」
彼は、貴族でもあり学者でもある男の子だった。
母親が野望豊かで、息子をハレの取り巻きにねじ込んだのだ。
本人は、その気は薄かったようで、まめに顔を出さないし、出したところで他の貴族たちの中に埋もれてしまうような地味な性質だった。
彼の受け答えは、父親の血と教育の賜物なのか、学者らしいもので。
時々、考えるために言葉を止め、頭の中で整理をつけてから、次の言葉を話す。
本の読み過ぎで目が悪くなったのか、ときどきしかめっ面をするところも、ハレの笑いを誘った。
母の使う眼鏡を、貸してみたくなった。
そう。
眼鏡で思い出した。
母親が、あやふやな知識ながらに、言っていたことがあった。
硝子には屈折率というものがあり、それによって物を大きくみたりすることが出来るのだと。
母の眼鏡も、その原理を用いているという。
もしも、眼鏡よりすごいものがあれば、空の星などをより大きく見ることが出来るのではないだろうか。
ウメという女性であれば、詳しく知っているのかもしれない。
この男と話をしていたら、彼女と会いたくなった。
前回は、モモに誘いをかけるための来訪だったため、ほとんど話をすることが出来なかったのだ。
どうせ。
ハレは、太陽にはならない。
それならば、賢者志望の貴族の男よりも、こんな学者肌の男がいいのかもしれない。
彼の母親は、大きな勘違いをしそうだが。
穏やかな旅路になりそうだ。
ハレは、自分を取り巻く人々を思い浮かべて、ふぅっと安堵の吐息をつくことが出来たのだった。
※
「ハレイルーシュリクス……」
父の声は、わずかな余韻がある。
ハレはいま、父親でありイデアメリトスの太陽でもある男に、自分の旅の人選を伝えたのだ。
「お前は、何になる気なのだ?」
何代ものイデアメリトスが座って来た、石の椅子。
そこに腰かける父の目は、やはり節穴ではなかった。
文官役に選んだ者を見れば、賢者の器ではないことくらい、お見通しなのだ。
「学者になれるものならば……」
半分は本当で、半分は嘘の言葉。
政治を、やりたくないわけではない。
だが、それは太陽になってまで、執政しなくてもいいと思っている。
だから、政治と遠い学者という言葉を使った。
イデアメリトスの太陽から、出来るだけ遠い言葉。
「だが、もしテルタリウスミシータの旅が失敗した場合、お前に選択の余地はないぞ」
ハレは、父親を見上げた。
「テルは、失敗しません」
賢者に相応しい武官役と、文官役。
そして、モモをも上回る女性の助けが決まったのだ。
更に、テル自身の器量。
彼が失敗するというのならば、ハレが成功するはずがない。
「二人とも成功したら、私はお前を次の太陽に任命するかもしれないぞ」
父は、噛んで含むような言い方をした。
誰もが、なりたいものになれるわけではない。
それは、ハレも分かっている。
「もしも、父上がそうお決めになられたのならば、どうして私が逆らえましょう」
だから。
ハレも、噛んで含む言葉を返した。
それを、自分は決して喜んで受けるわけではないのだ、と。
こんなやりとりは、誰にも聞かせられないものだった。
聞いているのは、石だけ。
この空間を取り巻く、石の床や壁や椅子だけ。
「お前は……本当に、母に似たな」
石にこぼれ落ちるのは、父の苦笑。
イデアメリトスの太陽の伝統を、数多く揺るがした母は、いまだ父にとって特別なのだ。