しかるべき場所
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そして。
ついに、父からの使者が早馬で来た。
伯父は、都まで厳重に護送されることとなった。
さすがに、父がここまで出向いてくることは出来なかったようだ。
代わりに。
護送の最高責任者としてやってきたのは。
「武の賢者殿か」
その見事な巨躯を、テルはまじまじと眺めた。
これこそ、武勇の美というべきか。
テルの目からは、好ましく思える姿だった。
剣士としては、無駄の多い筋肉だ。
だがしかし、見た瞬間の威圧感と、剣術以外の力技にも、いかようにも働くことのできる──そう、働き者の身体だった。
この男は、剣を持とうが鍬を持とうが、きっとどちらでも気にすることはないだろう。
「貴殿を送ってくるほど、重要事項と認識なさったわけだな、父上は」
父の信任厚く、決して裏切ることはない。
たとえ、伯父が護送中にいかなる甘言を用いようとも、この男の心は動かせまい。
リリューは、この男に似たのだろうか。
無口な賢者は、重々しく頷くだけだ。
「して……都に護送した後、父上はどうなさるおつもりかな?」
既に、この先のことは決定済みのはず。
連れて行くということは、何か話をするつもりなのだろう。
問題は、その後。
武の賢者なのだ。
知らないはずは、ないだろう。
「……お身内を集められます」
低く低く、賢者は答える。
テルは、自分の心が父と一致したことを理解した。
そうか、と。
身内──イデアメリトスの親族を、都に集めるのだ。
何をするか?
そんなことは、決まっている。
伯父の、処刑だ。
今後誰ひとりと、イデアメリトスを裏切らぬよう。
伯父は、しかるべき場所で、死ななければならないのだ。