もう一人の母
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成長したハレを待っていたのは、宮殿からの贈り物と──宮殿以外からの贈り物だった。
宮殿からの物は、大人として身につけるものなど。
これは、テルに届いたものと同じだろう。
ハレは、勿論それを喜んだ。
だが。
宮殿以外から届いたものは、彼の胸を熱くしたのだ。
贈り主は──ウメ。
贈られたものは、本だった。
美しい手書きの字でしたためられた、世界でたった一冊の本。
しかも。
きっと、この本は長い時間に渡って書き記されたものだ。
それほどの、厚みがあった。
ウメの知識や考えが、たくさん詰まったかけがえのない本。
それを、彼女は自分のために作り、そして成人の贈り物にしてくれたのだ。
ハレは、本を胸にかき抱いた。
ああ、と。
自分が生まれた時、最初に祝福をくれたのは、父ではなかった。
高位な神官でもなかった。
異国からきた女性だったのだ。
テルには、キクが。
ハレには、ウメが。
生まれた瞬間、母以外で一番自分に愛をくれた人。
イデアメリトスの力を、受け継いでいようがいまいが、母と彼女たちは自分を大事にしてくれたのだ。
その愛は──途切れてなどいなかった。
ほとんど会うこともなく、話をすることがないまま成人した自分が、どれほど不義理だったかを思い知らされる。
母の次に、彼女に愛を贈らなければならなかったというのに。
表紙の次のページには、こうあった。
『雲のない光の差す空のことを、私たちの国の言葉で晴れといいます。晴れは、昼にも、そして夜にもあるのです』
昼も夜も分け隔てなく。
昼間の太陽にも、夜の月にも──晴れは必要なのだと。