ほくろと刀
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桃は、コーと待っていた。
太陽が真上に来る時が、ハレの儀式の時間だという。
その時間は、既にとうに過ぎた。
全てを終えて、大人になった彼が現れるのを、楽しみに待っているのだ。
だが。
最初に出てきたのは──ハレではなかった。
「わ……大きい人だ」
コーが。
その人間を見て、思いついたままを口にする。
大きい。
桃は、その言葉を複雑に受け止めた。
大きさで言えば、リリューの方が大きいだろう。
そういう意味ではないのだ。
左目の下の、ふたつのほくろ。
腰の日本刀。
テル以外の、誰だというのか。
後から歩いて来るのは、母と仕事上付き合いのある貴族──ヤイク。
テルの文官役として、同行していた男だ。
エンチェルクがいたのだから、テルがいても当然だったのだが、これまで何故か大人になった彼のことは、すっかり頭から抜け落ちていた。
道場で稽古していた時の、気安さはもはやそこにはない。
桃が、腰をかがめて挨拶をすると、コーも慌ててそれに倣った。
「俺の方が……大きくなったな」
ニヤっと、テルが皮肉に笑った。
それはそうでしょうとも。
桃は、笑みがひきつってしまう。
年下のはずの桃が、どんどん大きくなるのを、テルはきっと悔しく思っていたのだろう。
そんなテルの視線が、コーに向く。
ハレの旅路に、本来いなかった者だ。
「ああ……月の」
だが、既に話は聞いているらしく、テルはすぐに納得したようだった。
しかし、別の意味で怪訝な視線を向ける。
「少女……という年じゃあ……ないな」
事の次第を知らないテルの言葉に、桃は──苦笑いを浮かべる羽目となったのだった。