大きな手
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ハレの儀式は──厳戒態勢の元、執り行われた。
テルは、まさにこの最中に殺されかけたのだ。
彼の戦いに関する思考と用心の深さは、そこでも現れたという。
刀を持ち込んでいたのだ。
ハレだったならば、間違いなく斬られていたに違いない。
赤く長い衣装を引きずって、ハレは太陽の降り注ぐ円の下へと進み出る。
間もなく、真昼。
この小さな身に、別れを告げるまでもう少し。
複数の神官が、彼の背後に立つ。
本来であれば、髪を切る者一人だけが立つらしいのだが、お互いを監視するためにそうしているのだ。
膝をつき、儀式の全てを神官に任せる。
目を閉じた。
恐れはない。
しかし、何分初めてのことなのだ。
イデアメリトスの旅を成功させた皆が、この瞬間を味わった。
近くではテルやオリフレア。
遠くでは、父や祖父。
みな、初めての体験をここでしたのだ。
髪が──掴まれる。
刃の固い感触が、髪を軽く引いた。
サクッ。
髪に入った刃は、そのまま一気に引かれた。
長い間、とてもとても重かった髪が、一気に消え失せる。
刹那。
ハレは、一瞬目の前が真っ暗になった。
いや、意識を持っていかれかけた。
本当は、見えていたのかもしれない。
だが、意識が暗くなったため、視覚も聴覚も意味をなさなかったのだろう。
ただ、ぐわんっと。
自分の頭の中が大きな音を立てたのだけを、全身で聞いた。
気づいたら。
「で、殿下……大丈夫ですか!?」
神官に助け起こされていた。
まだはっきりしない頭を振りながら、ハレはそれには答えず、ただ己の手を見たのだ。
テルほどではない。
しかし──大人の大きな手だった。