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大事な人

 桃は──二度、彼女を見た。


 エンチェルクを、だ。


 女性用の神官の宿舎に、彼女はいた。


 桃とコーも、ハレの儀式の間、そこに入る予定になっていたのだ。


 一度目では、彼女とは分からなかった。


 それくらい、エンチェルクは凛々しかったのだ。


 年の頃は、母と同じくらい。


 彼女は、桃にとても優しかった。


 甘かったと言っていい。


 だが、その優しさや甘さは、自分自身を桃よりも下に置いてのものだった。


 エンチェルクは、いままで自然と階級をつけていたように思える。


 一番上に母がいて、その次に桃がいて──そして、自分なのだと。


 だから、どこか卑屈だった。


 卑屈であることを、普通と思っていたのか、容認していたのかは、桃には分からない。


 だが、彼女がその地位に何の不満もなかったことだけは、桃にも分かっていた。


 そんなエンチェルクが、こちらを見ている。


 急いで駆け寄って、彼女の旅の無事を喜ぶ様子はない。


 ここまで。


 長いようで短い旅路だった。


 桃には、上から下まで様々な出来事が起きた。


 それと同じ時間。


 エンチェルクにも、多くの出来事が起きたのだ。


 彼女を変えてしまうほど、大きな出来事が。


 その瞳には、もはや──自身を蔑む色はなかった。


「あの人、だぁれ?」


 止まったままの女二人に、コーがついに首を突っ込んできた。


 桃は、彼女ににこりと微笑んで見せる。


「エンチェルクイーヌルトさんと言うの」


 コーのために、本当の名前を告げた。


「私の、とても大事な人よ」


 心からの、敬意を込めて。


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