表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/329

太陽の道

「月の連中は、見つけたら即殲滅……助けた訳じゃないわよ」


 オリフレアは、テルに向かってはっきりとそう言った。


 彼女を守るフードの武官とビッテが、雷の逃したわずかな残敵を狩っている。


 もう一人の武官と側仕えの女が、オリフレアを守っている。


 テルの側には、返り血にまみれたエンチェルク。


 足を痛めているようだが、彼女もまたテルを守るために立っていた。


 ヤイクは、もう一歩も動けないというように路傍の石に腰掛けている。


「ああ、分かってる」


 凄まじい雷だった。


 テルも、勿論それを使うことが出来るが、それぞれ微妙に得意な方向は違うようで。


 彼女ほどの雷は、テルでも無理だろう。


 何しろ、雷は制御しづらい。


 味方に落ちるかもしれないあの状況で、何の迷いもなくぶっぱなせるのは、そうなっても構わないと思っているオリフレアならでは、なのかもしれなかった。


「……何故戻ったの?」


 彼女の口調が、咎める色を纏う。


「おもしろい戦法をしているようだったのに、何故もう少し続けなかったの?」


 武官の一人が、斥候でもしていたのだろうか。


 たとえしていたとしても、あの疾走の中、彼らより速く戻り報告したということを考えると驚嘆に値する。


 よほど、素早い男がいるようだ。


 向こうのフードだな。


 ヤイクは、ちらりと残党狩りの方を見た。


「犠牲が0の可能性があったからな」


「犠牲が4の可能性もあったでしょ?」


 テルの答えなど、オリフレアにはお見通しだったのか。


 即座に、言葉をかぶせられる。


 エンチェルクが、ちらりとこちらを見た。


「俺は、俺と国のために、犠牲を0にする必要があった」


 文句があるのか?


 まっすぐに、言葉で斬りつける。


「ほっとけばよかったわ!」


 オリフレアは、頭に血が昇ったように怒りに顔を赤らめた。


「次は、是非そうしてくれ」


 テルが笑うと、「次なんかないわよ!」と更に彼女は怒り狂う。


 そうだな。


 次はない。


 オリフレアも、ここで使ったのだ。


 たった一度の魔法を。



 ※



 夜になるというのに、オリフレアは先に出立した。


 この分だと、一番最初に神殿にたどり着くのは、彼女になるだろう。


 テルたちは疲労も深く、エンチェルクの足のこともあったので、それこそ死体のすぐ近くの林で野宿することとなったのだ。


 近場に水はなく、彼女はとりあえず物陰で身を拭き、そして着替えるので精一杯だったようだ。


 そんな、一応身なりを整えたエンチェルクが、テルの前に膝をつく。


「ありがとうございます……我が君」


 凛とした、顔だった。


 これまで、余りまっすぐにテルの顔を見なかった。


 そんな女が、しっかりと彼に顔を向けるのだ。


「礼を言われるようなことなど、していない」


 そんなエンチェルクの態度に、テルは笑った。


 彼女が言った言葉で、十分だったのだ。


 命を賭けることを、そもそもエンチェルクは厭うていなかった。


 テルより先に、ウメに別れの言葉を言って死ぬような女だったのだ。


 だが、今、その目は生気に溢れている。


 生きるのだ。


 彼女は、テルの力となって生きる気になったのだ。


 テルのため──いや、この国のため。


 長かった。


 ここまで、エンチェルクは本当にかたくなな女だった。


 自分の唯一の主はウメだけで、そんな彼女に言われてしょうがなく、この旅に参加したようなもので。


 そんなエンチェルクが、ここで変わった。


 ビッテも、彼の前で膝をつく。


「もう一度、こうして臣下の礼を取れるとは、思ってもみませんでした……我が君」


 彼の目は、「違うのです」と言っていた。


 ヤイクが、そしてエンチェルクが「我が君」と呼ぶから、自分も呼んでいるのではないのだと。


 本当に、そう思っていて呼んでいるのだと、ビッテの目は訴えてくる。


 分かっている。


 そんなことを、疑うことなど必要ない。


 敵の前で、身を投げ出して伏せた男に、どうして疑いなど持とうか。


 剣を持つテルだからこそ、それは痛いほどに分かった。


 ああ。


 これが、本当の臣下を得るということか。


 これが──太陽の道か。


 テルは、強く強くそれをかみ締めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ