太陽の道
∠
「月の連中は、見つけたら即殲滅……助けた訳じゃないわよ」
オリフレアは、テルに向かってはっきりとそう言った。
彼女を守るフードの武官とビッテが、雷の逃したわずかな残敵を狩っている。
もう一人の武官と側仕えの女が、オリフレアを守っている。
テルの側には、返り血にまみれたエンチェルク。
足を痛めているようだが、彼女もまたテルを守るために立っていた。
ヤイクは、もう一歩も動けないというように路傍の石に腰掛けている。
「ああ、分かってる」
凄まじい雷だった。
テルも、勿論それを使うことが出来るが、それぞれ微妙に得意な方向は違うようで。
彼女ほどの雷は、テルでも無理だろう。
何しろ、雷は制御しづらい。
味方に落ちるかもしれないあの状況で、何の迷いもなくぶっぱなせるのは、そうなっても構わないと思っているオリフレアならでは、なのかもしれなかった。
「……何故戻ったの?」
彼女の口調が、咎める色を纏う。
「おもしろい戦法をしているようだったのに、何故もう少し続けなかったの?」
武官の一人が、斥候でもしていたのだろうか。
たとえしていたとしても、あの疾走の中、彼らより速く戻り報告したということを考えると驚嘆に値する。
よほど、素早い男がいるようだ。
向こうのフードだな。
ヤイクは、ちらりと残党狩りの方を見た。
「犠牲が0の可能性があったからな」
「犠牲が4の可能性もあったでしょ?」
テルの答えなど、オリフレアにはお見通しだったのか。
即座に、言葉をかぶせられる。
エンチェルクが、ちらりとこちらを見た。
「俺は、俺と国のために、犠牲を0にする必要があった」
文句があるのか?
まっすぐに、言葉で斬りつける。
「ほっとけばよかったわ!」
オリフレアは、頭に血が昇ったように怒りに顔を赤らめた。
「次は、是非そうしてくれ」
テルが笑うと、「次なんかないわよ!」と更に彼女は怒り狂う。
そうだな。
次はない。
オリフレアも、ここで使ったのだ。
たった一度の魔法を。
※
夜になるというのに、オリフレアは先に出立した。
この分だと、一番最初に神殿にたどり着くのは、彼女になるだろう。
テルたちは疲労も深く、エンチェルクの足のこともあったので、それこそ死体のすぐ近くの林で野宿することとなったのだ。
近場に水はなく、彼女はとりあえず物陰で身を拭き、そして着替えるので精一杯だったようだ。
そんな、一応身なりを整えたエンチェルクが、テルの前に膝をつく。
「ありがとうございます……我が君」
凛とした、顔だった。
これまで、余りまっすぐにテルの顔を見なかった。
そんな女が、しっかりと彼に顔を向けるのだ。
「礼を言われるようなことなど、していない」
そんなエンチェルクの態度に、テルは笑った。
彼女が言った言葉で、十分だったのだ。
命を賭けることを、そもそもエンチェルクは厭うていなかった。
テルより先に、ウメに別れの言葉を言って死ぬような女だったのだ。
だが、今、その目は生気に溢れている。
生きるのだ。
彼女は、テルの力となって生きる気になったのだ。
テルのため──いや、この国のため。
長かった。
ここまで、エンチェルクは本当にかたくなな女だった。
自分の唯一の主はウメだけで、そんな彼女に言われてしょうがなく、この旅に参加したようなもので。
そんなエンチェルクが、ここで変わった。
ビッテも、彼の前で膝をつく。
「もう一度、こうして臣下の礼を取れるとは、思ってもみませんでした……我が君」
彼の目は、「違うのです」と言っていた。
ヤイクが、そしてエンチェルクが「我が君」と呼ぶから、自分も呼んでいるのではないのだと。
本当に、そう思っていて呼んでいるのだと、ビッテの目は訴えてくる。
分かっている。
そんなことを、疑うことなど必要ない。
敵の前で、身を投げ出して伏せた男に、どうして疑いなど持とうか。
剣を持つテルだからこそ、それは痛いほどに分かった。
ああ。
これが、本当の臣下を得るということか。
これが──太陽の道か。
テルは、強く強くそれをかみ締めたのだった。