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速さ

 キクは、本当に沢山のことをテルに教えてくれた。


 剣の事だけではなく、どうやって戦うかということまで。


 戦争ではなく個別の戦いでは、剣士は一人で大人数を相手にすることもある。


 圧倒的に不利な状況を、どう戦うか。


 その中のひとつを、テルは記憶から引き出したのだ。


『その昔、日本中に名の轟いた剣豪がいてな』


 キクの祖国で、伝説のようにいまも残る男の話。


 テルは、とにかくヤイクと全力で走っていた。


 彼は、剣の一環で身体を鍛えてはいたが、まだ子供の姿であったし、ヤイクは体力には自信のない男だ。


 それでもヤイクは、ここまでの旅路を歩いてきたのである。


 都でなまりきっていた足も、多少は強くなっているようだ。


『その男は、一人で何人も相手にして生き延びてきた』


 テルたちが逃げたことで怒りが爆発した連中が、猛然と後方から追ってくる。


『確かに男は強かったが、強いだけではなく……』


 飛びぬけて足の速い連中が、彼らの傍まで迫った時。


 振りかえりざまに、ビッテとエンチェルクが、それらを斬り捨てる。


『強いだけではなく……足が速かったのだ』


 キクが、ニヤッと笑った。


 テルの頭の中で。


 彼も、同じ笑みを浮かべた。


 悪い、戦い方だ。


 しかし、一対一ではないのだ。


 より不利な立場の人間は、生き延びるために知恵を絞る。


 最初に十分な距離があったおかげで、すぐに全員に追いつかれることはない。


 後方で二人が斬っては走り、また斬っては走りを繰り返す間、二人はただひたすらに距離を稼いで走る。


 後方の武人より、どうしても足が遅いのだから。


 百人いようが、一度に数人ずつしか相手にしなければ、それは百対一ではない。


 これならば、少しずつ向こうの戦力を削っていけるのだ。


 夕日が沈んでゆく。


 月が昇ってゆく。


 だが沈んだ太陽は──決して死ぬわけではなかった。



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