表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/329

少し昔のあの日のこと

 むかしむかし──つい、桃はそう言ってしまったが、実はそれほど昔の話ではなかった。


 広場に作られた簡素な舞台に、初老の男が立つ。


 どこの家もからっぽなのではないかと思えるほど、老若男女が、小さな広場をいっぱいにしていた。


「みなさん、また今年もこの日がやってまいりました」


 20年ほど前。


「そうです……今日は太陽の実が、この町にやってきた日なのです」


 旅の一行が、この町を訪れた。


 甘い匂いを引き連れて。


 嗅いだこともないそのいい香りに、鼻がめっぽう効く男が、旅人に売ってくれと食い下がった。


 出された果物は、太陽の実で。


 男は、驚きのあまり、自分のなけなしの全財産でそれを買い上げようとしたのだ。


 そうしたら、子どもが言った。


『この町で、果物はひとついくらなら売れるのか?』


「『私』は、その質問に素直に指をみっつ立てました。30ダムです。そうでしょう? 野菜や果物など、普通毎日食べるものが、そんなに高くては皆買うことができませんから」


 そうしたら、どうでしょう。


「その子どもは、ひとつ30ダムでいいと言ったのです」


 信じられますか? 太陽の実ですよ。


 目にはうっすらと涙を浮かべ、その時の感動をいまも鮮やかによみがえらせているようだった。


「そして、本当にその値段で……いえ、更に三割引いた価格で売ってくれたのです……何故だと思いますか?」


 桃は、まるで母のおとぎ話を聞くように、男の話に夢中になっていた。


 コーも、首を傾げながら指を折っている。


「私が……八百屋だったからです。その子どもは、私に太陽の実を売る栄誉だけではなく、ちゃんと利益が入ることまで考えて売ってくれたのです」


 それが、この世の理だから、と。


「私は、その実を町中の全ての住民にきちんと分けて売りました。太陽に誓って、ただの1人も洩らさず、ただの1ダムの不正もしませんでした」


 男は、涙を拭った。


 ハレは──静かに微笑んでいた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ