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手回し

「モモは分かるとしても……そちらのお嬢さんは何者かな?」


 クージェは、ややつっかかる声をコーに向けた。


 モモに手痛く断られたことが、まだ気に障っているのだろう。


「私の楽士ですよ」


 ハレは、その答えをモモに任せることはしなかった。


 連れて行くと決めたのは、自分なのだ。


 まさか、イデアメリトスの息子から返事がくるとは思っていなかったらしく、彼は慌てて「そうですか」ともごもご言いながら引きさがった。


「まぁ、楽士……では、歌か音楽を奏でるのかしら」


 目を輝かせたのは、夫人の方だった。


 芸術好きの女性らしく、この屋敷にはたくさんの絵が飾ってあるし、調度品の趣味もいい。


 歌や音楽にも、興味が深いのだろう。


「ええ……彼女は素晴らしい歌を歌いますよ」


 コーの方を見て微笑むと、彼女は嬉しそうに目を細めた。


 何かしゃべろうとして開きかけた唇は、慌てて閉ざされる。


 モモの方を見ながら。


 この席に座るにあたって、相当彼女から注意を受けたのだろうか。


 窮屈そうだが、コーなりに一生懸命頑張っているようだ。


「もし夫人にお許しがいただけますなら、歌をお聞かせしたいのですが」


 モモが、すかさず言葉を滑り込ませた。


 なるほど。


 最初から、彼女はそうするつもりだったのだ。


 夫人に、コーを気に入らせるには、最良の方法だと考えていたのだろう。


「ええ、ええ、喜んで聞かせていただくわ」


 返事に、モモは嬉しそうに微笑んで。


 そして、入口の執事へと視線を送るのだ。


 彼は、すぐに──竪琴を運んできた。


 見事な手回しである。


 立ち上がったコーの横に椅子を置いて、モモはそこに竪琴を抱えて座る。


「まぁ……」


 そんな二人の姿を、夫人は嬉しそうに、そしてどこか懐かしそうに見つめていた。


 その瞳は。


 竪琴の音が流れ、コーの歌が始まった途端。


 陶酔へと色を変える。


 誰もが酔わずにいられないほどの──素晴らしい歌だった。


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