ひどい母親
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リリューが家に帰ると、また客が来ていた。
母への客だった。
珍しく、母が真面目に家に帰って来ていたのだ。
そして、客というのが。
「こんにちは、リリュー君。お邪魔してます」
とてもとても腰の低い──太陽妃だった。
硝子を鼻の上に乗せ、小さく可愛らしい姿は、たまにしか見ることはないが、余り変わっているようには思えない。
母より随分年上だと聞くが、とてもそうは見えないのだ。
「ハレが、旅のお手伝いを頼みに来たみたいだけど……ゆっくり考えていいのよ」
この太陽妃を見る度に。
テルとハレの性格を、納得せざるを得ない気がしてくる。
太陽になりたがらないハレ。
上下を重んじないテル。
この女性が、自分から太陽妃になりたいと望んだ姿など、とても想像が出来ないし、リリューに対してさえこんな態度なのだ。
いまだに、農林府で働いているという話を、母から聞かされていた。
宮殿の生活より、土に戯れる生活の方が、彼女に向いているとか何とか。
そんな彼女の息子の──テルの動向も気になった。
テルは、自分の同行者はどうする気なのか。
彼は、自分のことは気にしなくていいと言うだろう。
そんなことは、分かっているのだが。
もしかして、太陽妃なら息子たちのことを知っているのではないか。
ふと、そう思った。
「あの……」
リリューは、口を開いていた。
太陽妃が、視線を再び彼に向ける。
「テルは……同行者を決めましたか?」
本当は、もっとへりくだったしゃべり方をしなければならないのだろう。
ウメであれば、厳しい一言が来そうだが、母は何も言わなかった。
「テルは……あなたにハレを守ってもらいたがってるわ……きっと」
言葉は──少なくとも、テルは自分を必要としていないということだ。
彼もまた、過酷な旅をすることになるというのに。
ふぅと吐息をつくと。
母が、自分を見てこう言った。
「お前のついた方は、きっと太陽にはならん。気楽に選べ」
ひどいことをいう、母親だった。