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(c)hild

挿絵(By みてみん)

(Illustration by ROM)


 リリューは、人生最悪の瞬間を、幼少の内に体験した。


 それまで、港町は平和だった。


 大波や嵐、ケンカ騒動で運悪く死ぬ者はいたものの、駐留の兵士がしっかりしていたので、それ以外の理不尽な死とは無縁だったのだ。


 ある日、大きな船がやってきた。


 しばらく居座っている間は、リリューも面白がって港にその船を見に行ったものだ。


 だが、その船はある夜、突然牙をむいた。


 町に向かって、一斉に大量の火矢を打ち込んだのだ。


 そして、武装した兵士たちが大勢下りてきて、駐留の兵士と殺し合いを始めたのである。


 とばっちりは、勿論一般市民にも及んだ。


 町中が火の海となり、逃げまどう弱い者が倒れて行く。


 リリューも、両親と一緒に逃げていた。


 父は、兵士を食い止めようとして斬られ、母は燃え盛る柱から自分を守った。


 そこから、どうやって自分が一人で逃げたのか、よく覚えていない。


 泣きわめきながら、こけつまろびつ。


 気づいたら、港に出ていた。


 燃え上がる町の光を一身に浴びて、大きな船が禍々しい獣のように輝いている。


 港に倒れる、敵味方の血の海の中で。


 リリューは、けだもののように吠えた。


 小さな子供の喉が、裂けて血を流すほど吠えた。


 小さな生き物の声は、敵を呼んだ。


 もう、どうでもよかった。


 自分の命など、本当にどうでもよかった。


 こんな生き地獄の真っただ中で、憎しみに吠えながら殺されるのだ。


 汚れた剣が、笑い声と共に振り出される。


 リリューは、吠えた。


 その吠え声と共に──目の前の男の身体が、斜めにずれた。


 次々と。


 声もなく、男たちの身体は二つに別れたのだ。


「人で……あれ」


 崩れ落ちる肉の塊を越え、『それ』、は現れた。


 刀を収め、手を伸ばされる。


 血で汚れた手だというのに、リリューは恐れることが出来なかった。


 抱き上げられる。


 ただぎゅっと、リリューは『それ』にしがみついた。

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