第七話 ―戦わない戦争―
その通りは、
妙に静かだった。
人は多い。
だが、騒がしくない。
むしろ――
張り詰めている。
「……ここは」
エリシア・グランフェルトは、
通りを見渡し、低く言った。
「戦場だな」
男は、
一瞬考えてから答えた。
「まあ……
激戦区ですね」
最初に目に入ったのは、
人の列だった。
一直線。
整然。
だが、異様に長い。
「……隊列か?」
「行列です」
「……待機中の兵?」
「客です」
エリシアは、
列の先を見る。
暖簾。
湯気。
匂い。
「……補給拠点か」
「そうですね」
列は動く。
ゆっくり。
確実に。
誰も割り込まない。
怒号もない。
「……規律が高い」
「暗黙の了解、ですね」
通りには、
同じような店が並んでいる。
だが――
微妙に違う。
匂い。
色。
看板。
「……同一兵科か?」
「いえ、
流派です」
「……味の、流派?」
男は、
指を折って説明する。
「醤油、味噌、塩、豚骨……」
「派閥が多いな」
「ありますね」
「だが、
互いに潰し合ってはいない」
「してません」
エリシアは、
真剣な顔になった。
「……なぜだ」
男は、
少しだけ笑った。
「潰すと、
自分も困るからです」
一軒の前で、
列が止まる。
暖簾が揺れる。
「……突入か」
「入店です」
店内は、
狭い。
だが、
無駄がない。
全員が、
黙々と食べている。
「……戦闘中だな」
「食事中です」
ラーメンが置かれる。
湯気。
香り。
「……これは」
一口。
「…………」
二口。
「……なるほど」
箸が止まらない。
「……美味い」
食べ終わると、
客はすぐ立つ。
会釈。
退店。
「……撤退が早い」
「回転が命です」
「戦果は?」
「満足度、ですかね」
エリシアは、
器を見下ろした。
「……血は流れていない」
「ええ」
「だが、
勝敗はある」
男は、
頷いた。
「あります」
店を出る。
通りは、
相変わらず静かだ。
だが、
確かに燃えている。
「……この戦場では」
エリシアは、
ゆっくり言った。
「剣を抜いた者が、
負けるな」
「たぶん」
「味で戦い、
列で評価され、
沈黙で敗北を受け入れる」
男は、
苦笑した。
「だいぶ理解してますね」
エリシアは、
通りを見渡す。
暖簾。
列。
湯気。
「……高度だ」
池袋には、
血の流れない戦争がある。
そして――
誰も、
死なない。




