第六話 ―魔導具の氾濫―
その建物は、
塔ほど高くはなかった。
だが――
中が、光っている。
「……ここは」
「家電量販店です」
「……武具庫か?」
「まあ……
生活用ですけど」
エリシアは、
慎重に足を踏み入れた。
眩しい。
剣も、盾も、
見当たらない。
代わりにあるのは、
光る板、
回る箱、
唸る筒。
「……魔導具だな」
「ええ、
そう言っていいと思います」
エリシアは、
一つの棚の前で立ち止まった。
人々が、
小さな板を手にしている。
「……通信魔法?」
男は、
頷いた。
「スマートフォンです」
「……王や将軍のみが扱う
伝令術が……」
「誰でも、持ってますね」
エリシアは、
言葉を失った。
通信は、
戦場を制する。
それを、
子どもが、
老人が、
何気なく使っている。
「……統制は?」
「ありません」
「……制限は?」
「ほぼ」
沈黙。
「……恐ろしい国だな」
次に目に入ったのは、
白い箱だった。
「……冷却魔法?」
「冷蔵庫です」
「保存の術か」
「はい」
「魔力は?」
「電気です」
「……魔力ではない?」
「似たようなものです」
エリシアは、
扉を開け、
中を覗き込む。
冷気。
「……兵站官が泣くな」
洗濯機。
掃除機。
炊飯器。
「……生活魔術だ」
「そうですね」
「剣を振るうより、
よほど人を救っている」
男は、
否定しなかった。
売り場の奥。
武器に最も近いものが、
そこにあった。
細長い筒。
「……雷撃杖?」
「ドライヤーです」
「……?」
風と熱。
「……これは」
「髪を乾かします」
エリシアは、
真剣な顔で考え込んだ。
「……戦闘用ではない?」
「ありません」
「だが、
用途を限定すれば――」
「ダメです」
男は、
即座に止めた。
エリシアは、
腕を組んだ。
「……この都市では」
しばらく考え、
静かに言う。
「武器が、
武器である必要がない」
「ええ」
「力は、
奪うためではなく、
便利にするためにある」
男は、
少しだけ驚いた顔をした。
「……気づきました?」
「騎士は、
力を独占する存在だ」
「……はい」
「だが、
ここでは――」
エリシアは、
店内を見渡す。
「力は、
棚に並べられている」
店を出る。
外の光が、
少し眩しい。
エリシアは、
無意識に剣の柄を握り――
やめた。
「……この国では」
ぽつりと、言う。
「剣は、
最後の道具なのだな」
男は、
それを否定しなかった。
家電量販店の看板が、
背後で光っている。
そこは、
魔導具が溢れる都市。
そして、
騎士の武器観が、
確かに揺らいだ場所だった。




