第十四話 ―エンディング ― 池袋の女騎士
朝の池袋は、
少しだけ優しい。
夜の喧騒が引き、
通勤と通学の流れが
街を滑らかに動かしていく。
エリシア・グランフェルトは、
その歩道の端を歩いていた。
鎧は、
もう着ていない。
代わりに、
動きやすい服。
だが――
剣だけは、変わらず背にある。
コンビニの前。
自動ドアが開く。
「……おはようございます」
店員は、
ちらりと背中の剣を見て、
それ以上何も言わない。
「おはようございます」
それで、終わりだ。
エリシアは、
もう驚かない。
袋を手に、
外へ出る。
ベンチに座り、
おにぎりを開く。
温かくない。
だが、美味い。
「……相変わらずですね」
隣に座った男が、
コーヒーを飲みながら言う。
「兵站が優秀すぎる」
「それ、
褒めてます?」
「最大級にな」
二人は、
それ以上話さない。
それで十分だった。
駅へ向かう途中、
道を尋ねられる。
「すみません、
サンシャインって……」
エリシアは、
少し考え――
指差す。
「この道を真っ直ぐだ。
迷ったら、
流れに逆らうな」
「ありがとうございます!」
走り去る背中を見送り、
エリシアは小さく頷いた。
(……守ったな)
剣は、
抜いていない。
乙女ロード。
新しいポスターが貼られ、
知らない物語が増えている。
誰かが、
推しを語り、
誰かが、
物語を選んでいる。
エリシアは、
その中を歩く。
もう、
異物ではない。
ふと、
通りすがりの声が聞こえた。
「ねえ、
今の人……
剣持ってなかった?」
「え?」
一瞬の沈黙。
そして、
軽い笑い声。
「池袋なら、
女騎士くらいいるでしょ」
その一言は、
説明でも、
冗談でもなかった。
ただの、
受け入れだった。
エリシア・グランフェルトは、
歩みを止めない。
帰還の可能性は、
まだある。
だが、
今ここで選んでいる。
戦わず、
奪わず、
物語を押し付けず。
それでも、
剣を持つ理由はある。
池袋という街で、
誰かの選択が折れそうな時、
立っていられる存在であるために。
彼女は今日も、
迷宮の中を歩く。
異世界より、
物語の多い街で。
――池袋の女騎士として。




