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剣聖令嬢、子供遊びに混ざる


「良かったら、一緒にあそびましょう?」


庭へ出た私が子供たちに話しかけてみると、少年少女が無邪気に駆け寄ってきて、あっという間に囲まれてしまった。

皆、口々に「院長先生のお嫁さんだー」とか「新しい先生?」とか「抱っこしてー」とか無秩序な質問攻めに驚かされながらも、嬉しそうにしてくれる。


(子供って、こんなに可愛いモノなのね……)


タイムスケジュールが淑女教育と剣術の稽古で埋め尽くされていた私にとって、こんなに沢山の10代前後の子供と触れ合う機会など全くなかった。

だからなのか、つい私もはしゃいでしまう。


「お、おいでー!」


「キャハハハ、すごーい!」


流石……というべきか、剣聖たる私でも息が上がってしまう程に子供達の相手は大変で、四方八方から抱き着かれるせいで着ていたワンピースがぐちゃぐちゃだ。


(私の子供の頃とは全然違う……)


彼らと同年代の子息令嬢は、こんな無邪気に笑ったりするだろうか?

きっとできないだろう。

こうして仲良く遊べる友達なんて、殆どいないはずだから……。

そんなことを考えると、まるでここが異世界の様にすら感じられる。


「おねえちゃん、一緒にケーキ切って!」


「はい、いいですよー」


「おねえちゃん、高い高いして!」


「はいはい、高い高ーい」


「おねえちゃん!」


「はいはーい!」


子供の遊びに終わりなどなく、なまじ私も体力があるせいで、子供達のテンションも最高潮である。

もう何十回彼らを空中に打ち上げてはキャッチしたのか覚えていない。


(……あれ?)


けれど、ふと視線を外すと、輪に入らずにこちらをじっと見つめる二人の少女がいた。

鋭い眼差しで私を射抜くのは、亜麻色の髪を無造作に束ねた伸長140㎝程度の少女と、その背中に隠れるようにして同じ亜麻色のショートヘアの少女だった。

少女たちは互いを守りあうように、震える手で色褪せたネイビーのワンピース服を握りしめている。


(『王の瞳』? いや、少し違うかな?)


『王の瞳』と呼ばれる金色の瞳はとても珍しく、貴族のごく一部にしかその瞳の持ち主はいない。

少女たちの瞳の色は金色かと思ったが、やはり流石に違った様で、金に近い琥珀色となっている。

なんにせよ、髪型や服装は違うが、彼女たちが姉妹である事は明白だった。


「貴方たち、一緒に遊ばない?」


「…………」


話しかけても、返ってくるのは無言だけ。

まるで自分たちを守る最後の手段とでも言うかのように、堅く閉じている口。

怯えているわけでもなく、ただただ、私をその目に映し続けている。

琥珀の瞳には子供らしい輝きではなく、重く、暗い色が混じっていた。


(この子たち、人見知りしてるわけではないわ。何か、訴えているみたいな目……)


「ケーキ、一緒に食べる?」


「…………」


「おねえさん、何でもお話し聞くわ」


「…………」


どうしても話してくれなかった。

彼女たちが何を考えてえているのか、何故私を見つめるのか、どうにかして聞き出したいのに……。


(仕方ないわね……)


その警戒心を溶かしたい。

だから私は、令嬢としての淑やかさを捨てることにした。


「……ねぇ、退屈なら、一発芸を見せてあげましょうか」


「……?」


二人の少女が怪訝な顔をする。

その顔さえ見れれば、私の思惑は叶ったも同然だ。


「それっ!」


先ほど『ポム・ド・メール』でエリンから貰ったおまけのリンゴを一つ取り出し、高く空へ放り投げた。


「見ててね!」


重力に従って落ちてくるリンゴ。

私は先ほど使ったケーキナイフを構えると―――瞬きをする間に、三閃。

空気をも切り裂く最速の剣筋で皮だけが螺旋を描いて舞い、身の部分が均等な八等分となって少女たちの手元へ落ちていく。


「…………え?」


リンゴを受け取った少女たちは、言葉を失っていた。

断面は作り物のように滑らか。

これほど精密かつ一瞬の剣技を出来るのは、同じ剣聖かそれ以上の存在でなければ不可能な芸当だ。


「……あ」


観客の姉妹は信じられないものを見たとでも言うかのように、口を開けて硬直している。

ワンピースと幅広の帽子をかぶった平民姿の女が、いきなり空中でリンゴをカットしていたら、誰だってびっくりするだろう。

だからこその一発芸だったが、想像以上に驚かせてしまったらしい。


(やりすぎたかも。これじゃ曲芸師か暗殺者だわ……)


取り敢えず、昔サーカスやってたとか、料理研究を極めすぎたとか、何か取り繕わないと。

そう思った時、先ほどまで縮こまっていた少女たちがずいっと駆け寄る。


「すごい!」


「え?」


「ねぇ、おねえちゃん……いまのどうやったの!?」


「あぁ、い、今のは」


「あんな動き、見たことない! 凄いです! さっきのやつ、私たちに教えてください!」


姉妹が目を輝かせて私の服の裾に縋り付いてきた。

この子たちの興味を引き、コミュニケーションできるようにするという目的は果たされたが。


「お、教えるのは……ちょっと、ムリかなぁ」


「なんでですか!」


「えぇ!?」


「なんでなんで!?」


「それは、えっと……」


「私達頑張るから! 教えてください!」


「む、難しいので」


「がんばるもん! おねがい!」


「うーん……」


「先生のお嫁さんなんですよね! お願いします!」


「ま、まだ……お、お嫁じゃ」


「おねがい! およめさん!」


「…………分かったわ」


その切実な瞳に気圧され、私は思わず頷いてしまう。

子供達の遊びに付き合うだけだったのに、なんだか変な事になってしまった。


「じゃあ、教えてあげるけど……ゼスィア院長には言っちゃだめよ?」


「はーい!」


「絶対、ぜーったいに、教えちゃだめだからね?」


少女たちはコクコクと頷くも、正直心配でならない。

もしバレたときは、淑女教育を極めたら出来るようになっていました、と言おう。

信じてくれるか大分怪しいが、もうそれで押し通すしかない。


「私はセレナ。ゼスィア先生の一個下よ。貴方たちは?」


「わたし、シエラ! 10歳!」


「カーシェです。この子の姉で、一応13歳です」


カーシェとシエラの気迫に負けて、『剣聖、絶対零度』による秘密の剣術教室が唐突に幕を開ける。

もしゼスィアにこの状況を見られたら、私は何としてもごまかしきることを心に誓うのだった。


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