筋肉ゴリラ
俺たちは蠅のマークが扉についた倉庫についた。
「ここだな」
と俺は言った。
「ちょっと待って。ここじゃないわ」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「えっ。だって蠅のマークついてるだろ」
と俺は言った。
「よく見て。口のところが剣のようになってるでしょ。あれはアブの特徴よ。よく似ているけど違うの」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「おお。そうか。じゃあ他を探してみるか」
と俺は言った。
「そうね。ちょっと待って人が来た。隠れましょ」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「おう」
と俺は言った。
二人は影に隠れる
バイク乗りの兄ちゃんは影から確認している。
「おかしいわね。あの肩の筋肉の付き方は、ステロイドっぽいわ。もしかしたら、あなたの情報提供者がアブと蠅を間違えたのじゃないかしら」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「そうか。絵を描いた奴がアブと蠅を間違えたのかもしれないしな」
と俺は言った。
「でもよく考えると、ステロイドを売りさばくってのは、蠅というより、人の生き血を吸う吸血みたいな行為だから。むしろアブのほうがピッタリかもね」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「お前、やたらアブと蠅に詳しいな」
と俺は言った。
「そりゃそうよ。これでも生物学の博士号もってるんだから」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「えっそうなの?」
と俺は言った。
「そうよ。惚れ直した?……あっダーリン、スーパーの袋を持った男が中に入っていったわ」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「……スーパーの袋。おかしいな、情報ではから揚げ弁当しか食ってないはずなんだけどな」
と俺は言った。
「じゃあ。自炊してるんじゃない?健康のために」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「……まさか」
と俺は言った。
「どうしたの?」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「なぁ。から揚げ弁当しか食わねぇ奴が、自炊始めるか?」
と俺は言った。
「そうね。美味しい料理作る下っ端が入ったりしたら、するんじゃない」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「そうか……、
その美味しい料理作る下っ端って言うのは、大事にされるか?」
と俺は言った。
「そりゃもちろんよ。男は胃袋で心を掴めるわ」
とバイク乗りの兄ちゃんはウインクをした。
俺は考えた。
あいつはきっとあいつらの飯を作ってる。
俺以外の男に飯を作ってるのは気に食わないが、
安全域にいるのは評価できる。
「ちょっとまって車が来た」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
黒塗りの高級車が止まる。
「ずいぶん髙そうな車だな」
と俺は言った。
「あの車どこかで……」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「知ってる奴か」
と俺は言った。
車からムキムキの男が出てきた。
「あの髪型。あの僧帽筋。あの顔。あいつは……」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「知ってるのか?」
と俺は言った。
「……私たちの界隈の嫌われ者よ」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「どういう事だ」
と俺は言った。
「……いいわ。教えてあげる。あの男はね。私たちと同じなのよ。わかるでしょ……」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「そういう事か」
と俺は言った。
「そういう事よ」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「なんで嫌われてるんだ」
と俺は言った。
「金にモノを言わせて、男を釣って、食って、ボロボロにして捨てる。
そういうクズなのよ」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「問題にならないかのか?」
と俺は言った。
「あいつの兄貴が大企業のCEOとかで、全部もみ消されるのよ」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「大企業ってまさか……ペケポンか」
と俺は言った。
「あぁそこよ。本当に腐った企業よね」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「あいつは何ものだと思う?」
と俺は言った。
「ちょっと待って。周りの連中のヘコヘコぶりからすると、幹部クラスじゃない」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
(会長ーーーー!)
遠くで声が聞こえる。
あの男が手を振ってる。
「あの男……このグループの会長なのか?」
と俺は言った。
「そうみたいね」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「あいつら強いと思うか?」
と俺は言った。
「夜は間違いなく弱いわね」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「いや。そっちじゃなくって」
と俺は言った。
「そうね。筋肉は大きいけど、腱と関節は鍛えられないから、腱とか関節を攻撃すればいいんじゃない」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「腱と関節か……、俺喧嘩したくねぇしな」
と俺は言った。
「そりゃそうよ。色男だもん。色男が喧嘩なんかしちゃダメだわ。あんなものはブ男のするものよ」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「さすがに言いすぎだろ」
と俺は言った。
「うんうん。違うの。良い男は喧嘩はしない。それが鉄則よ。だから私たちは喧嘩しない。
関節を攻められないなら、間接的に攻めればいいわ」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「かんせつだけにな」
と俺は言った。
「かんせつだけに……、何をいってるんだか」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「お前もウマいじゃねぇか」
と俺は笑った。
……
料理の匂いがする。
これはあいつが作る角煮丼の匂いだな。
(会長……角煮丼できました)
男たちは警備もほったらかして、一斉に走り出した。
「すごいわね。警備ほったらかしにする。どんなに美味い角煮丼なの」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
俺はあいつの作る角煮丼の味を思い出していた。
「じゃあ行こうか?中華料理屋で角煮丼ごちそうするわ」
と俺は言った。
「うれしい。ここはもう良いの?」
とバイク乗りの兄ちゃんは言った。
「いいさ。十分すぎるほどの情報は得た」
と俺は言った。
そして俺らは中華料理屋にいった。
鉄壁のから揚げ弁当グループを内側から崩す女。
それが俺の女だ。
あいつの腕にかかれば半グレであろうが怖くない。
あいつの料理は最恐だ。
だからあいつに手は出せない。
俺はそれを確信した。
あとはどうペケポンを潰すかだけだ。




