マスター
繁華街の外れに一軒の古びたバーがあった。
そこのマスターは裏社会に精通していた。俺もホスト時代なんども助けられた。
俺はマスターに一部始終を話した。
「エモノ用意できねぇか。金ならある」
と俺は封筒に入った現金をマスターの前に出した。
ナンバーワンの時計を売った48万円だ。
マスターは現金をちらりとも見ずに、
「神は克服できる試練しか与えないという。それが事実であるならば、与えられたもので勝負しな。それは神が与えた最適解だ」
そう言い謎のドリンクを作り始めた。
緑なのか紫なのか、意味のわからない色をしている。
漢方のようなニオイがした。
「俺の奢りだ。飲んで考えてみろ。お前に与えられたものが何かって事を」
と言い、俺の目の前に、謎のドリンクを出す。
これを飲むのか。
正直……
気がひける。
俺は覚悟を決め、一気に飲んだ。
なに?意外と悪くない。
俺は一気に飲み干した。
(げぷ)
俺は1,000円札をカウンターに置き、こう言った。
「マスター。ありがとうよ。じゃあな」
マスターは言った。
「ちょっと待て。忘れているものがある」
「なんだい。マスター」
俺はクールに問いかける。
「消費税分100円足りない」
マスターは言った。
俺はポケットから500円玉を出し、こう言った。
「マスター。ありがとうよ。釣りはいらねぇ」
「チップとして貰っとくよ。これは返礼だ。いらなかったら捨てといてくれ」
マスターはそう言い、古い雑誌を俺に渡した。
3年前の雑誌か……。
そこにはペケポンカンパニーの黒い噂についての記事があった。
(ふらっ)
急にめまいがした。
あぁマスター……もしかして毒でも盛ったか。
だからこの業界の人間は信用できねぇ。
意識がすーっと薄くなる。
「あれ……調合間違えたかな」
……
(ちゅんちゅんちゅん)
小鳥の声が聞こえる。
隣で女が小鳥の鳴き声の真似をしている。
うん。こいつは……
あぁ整形外科医の女か。
あれ。俺なんでコイツといるんだ。
ここはどこだ。
繁華街の外れのラブホか……。
「おはよう。昨日はずいぶん激しかったわね」
整形外科医の女は言った。
「激しかったって」
と俺は言った。
「何がって……。そんな事、女の私に言わせる気。
歯ぎしりよ」
と整形外科医の女は言った。
「あぁそうか。それはすまん」
と俺は言った。
「いいのよ。あなたの歯ぎしり、私は可愛いと思うわ」
と整形外科医の女は言った。
「そうか」
と俺は言った。
「ちょっと顎見せてね」
と整形外科医の女は言い、顎を触りだす。
「優しくしろよな」
と俺は言った。
「初めてなのかい」
と整形外科医の女は言った。
「おぅ」
と俺は言った。
「咬合異常(噛み合わせ)は問題ないわね。さすがハンサム。私の男だけはあるわ。
君は顔が均等で本当に良い」
と整形外科医の女は言った。
「おおそうか。お前もきれいだ」
と俺は言った。
「ありがとう。となると夜間の緊張ね。ストレス溜まってそうね。あの雑誌……、ちょっと見たけど、ペケポン?」
と整形外科医の女は言った。
「あぁ知ってるのか?」
と俺は言った。
「まぁね。触らないほうがいいわ。ややこしい連中と付き合いがあるから」
と整形外科医の女は言った。
「誰だ」
と俺は言った。
「……汚笑怒翔怪半グレよ」
と整形外科医の女は言った。
「何をやってる?」
と俺は言った。
「私が知ってるのは、無許可ステロイドの流通と尿の販売」
と整形外科医の女は言った。
「尿の販売?」
と俺は言った。
「そうよ。ドーピング検査をすり抜けるために尿を売ってるの。ステロイドはわかるわよね。筋肉増強剤に使われるわ」
と整形外科医の女は言った。
「その汚笑怒翔怪の連中もステロイド使ってるのか?」
と俺は言った。
「そうよ。違法薬物キメて感覚なくなったうえで、ステロイドやって鍛えてるらしいわ。ヤバイ目つきに、異常に発達した僧帽筋。あなたみたいにナチュラルじゃなくって、私は嫌い。
あぁいう身体」
と整形外科医の女は言った。
「そんなに異常な体形しているのか」
と俺は言った。
「トレーニー界隈の人間なら、誰でも気が付くんじゃない」
と整形外科医の女は言った。
「俳優とかでもステやってる奴なんていくらでもいるだろ。なんでそこまで嫌う」
と俺は言った。
「たしかにね、筋肉はつきやすいし、体脂肪はも落ちるし、バキバキにはなるわよ。でもね。ほら肝心のあっちがね。弱くなっちゃうじゃん」
と整形外科医の女は言った。
「マジか。そんな危険性があるのか?」
と俺は言った。
「そりゃそうよ。男性ホルモンを無理やり体外から入れるんだから、自分で作る気を無くすのよね。だから君はやっちゃダメだよ」
と整形外科医の女は笑った。
「そりゃ。俺のは商売道具だからな。絶対にやらない」
と俺は言った。
「さすが。私の男」
と整形外科医の女は俺を抱きしめた。
「ありがとうな。じゃあ今日はいくよ」
と俺は言った。
「ちょっと待って。軍資金いるでしょ」
と整形外科医の女は封筒を二つ俺に渡した。
ずしりと重い。200gか。200万だろうな。
「ありがとな」
と俺は言った。
「いいのよ。次会った時は、楽しませてね」
と整形外科医の女は耳元でささやいた。
「ここの(ホテルの料金)もいいか?」
と俺は言った。
「私があなたに払わせたことなんかあったかしら」
と整形外科医の女は言った。
「そうだな。ありがとな」
と俺は言った。
「気を付けてよ」
と整形外科医の女は言った。
「おう」
と俺は言った。
俺はホテルを出て、胸ポケットの封筒を見る。
やっぱり200万だな。
これで軍資金は248万か。
しかしな。
大企業だろ。
これでどうやって勝つ?
俺はまだ勝つためのピースがそろっていない事に
気が付いた。
すーっと生暖かい風が頬を通り過ぎる。
俺は一週間後生きているのだろか。
そんな不安がふと心に浮かんだ。




