ヒモの女
拉致されてから3日間。
から揚げ弁当しか食ってない。
朝:から揚げ弁当
昼:から揚げ弁当
夜:から揚げ弁当
昨日はさすがに文句を言った。
「さすがに2日間連続3食から揚げ弁当はねぇだろう」
「あっそうか。さすがに飽きるよな」
と下っ端筋肉ゴリラ1号は言った。
そして下っ端筋肉ゴリラ1号は誰かに電話を始める。
「うっす。あの経理の女がからあげ弁当飽きたっていうんですよ」
と電話で言った。
多分、上司……、いや兄貴分か何かなんだろう。
「うっす。わかりました。お疲れっす」
と言い電話を切った。
私はこれで、別のメニューに変わるものと思い込んでいた。
しかし私が間違っていた。
届いたのは、から揚げ弁当。
「いやいや。またから揚げ弁当だし。しかも同じ奴じゃん」
と私は言った。
「ちっちっちっ……違うんだな。これが」
と下っ端筋肉ゴリラ1号はどや顔でレシートを見せる。
私は経理部所属。レシートの顔を見た瞬間。
答えが出た。
「同じチェーン店の、違う店舗……。
ここれはまさか。
同じから揚げ弁当でも、店によって違うという。あれか」
と私は言った。
「おぅよくわかってるじゃねぇか」
と下っ端筋肉ゴリラ1号は満足げな顔をした。
私はから揚げ弁当の蓋を開ける。
たしかに昨日までのから揚げ弁当とは何かが違う。
私はから揚げ弁当を一口食べる。
「昨日の奴のほうが美味い」
と私は言った。
「だろ。今日のほうのはな、から揚げに対するリスペクトが足りてない気がするんだ」
と下っ端筋肉ゴリラ1号は言った。
「うんうん。それはすごくわかる。これ二度揚げのタイミングだろうな」
と私は言った。
「おぉそうなのか。姉ちゃん頭いいな。料理できるのか?」
と下っ端筋肉ゴリラ1号は言った。
「そりゃそうだよ。ホストのヒモをつないでいるのは、料理の腕だけだからな」
と私は言った。
「そうか。そりゃ姉ちゃんの料理食ってみてぇな」
と下っ端筋肉ゴリラ1号は言った。
「どうせ。拉致されてるし、暇だし作ってやるぞ」
と私は言った。
「まじか……。大飯ぐらいが多いんだが、みんなの分も作れるか」
と下っ端筋肉ゴリラ1号は言った。
「何人だ」
と私は言った。
「ここのアジトにいるのは5人だから、姉ちゃん合わせて6人分だ。量的には10人前くらいだ」
と下っ端筋肉ゴリラ1号は言った。
「それくらいならいけるぞ。でもいいのか。兄貴とかに言わなくって」
と私は言った。
「ちょっと待ってくれ。メッセージ送る」
と下っ端筋肉ゴリラ1号は言い、メッセージを送りだした。
すぐに返信が来た。
「食事代が安くなるから、飯炊きやらせろ。あと俺も食いに行くって。量的には12人前を作れって」
と下っ端筋肉ゴリラ1号は言った。
「おぉわかった」
と私は言った。
……
3日前私は拉致された。
きっかけは……、
私が経理の不自然さを指摘したことだった。
「部長。この数字を見てください」
「これがどうした」
と部長は少し緊張した面持ちで言った。
「数字がおかしいです」
と私は言った。
「いやおかしくない」
と部長は言った。
少し動揺しているようだった。
あぁそうですか。じゃあ勘違いでしたね。
と終わらせればよかったのに。
「この数字とこの数字が合いません。不正の恐れがあります」
と私は言った。
「決算発表前だ。この事はだれかに言ったかね」
と部長は言った。
「いえ。部長がはじめてです」
と私は言った。
「私がはじめて……」
と部長は少し安心した様子で言った。
「どうしましょうか?」
と私は言った。
「わかった。これは私が上に言っておこう。すまんがデリケートな問題になるから、調整に時間がかかる。君は別案件を頼む。第18資料室で手が足りてない。そちらに向かってくれ」
と部長は言った。
「わかりました」
と私は言い、第18資料室に向かう。
「じゃあ……」
と部長は深く頭を下げた。
……
部長はなんであんなに頭を下げてんだろう。
私はふと思った。
ペケポンカンパニーは、複数の事業からなり、その経営実態はとても複雑だ。
正直経理一人では全容はまったくつかめない。
第18資料室。
そんな所あったかなと思いつつ、社内ネットで場所を探す。
旧館の地下2階か……。
私は旧館の地下2階に行く。
途中守衛に何度もIDカードを見せながら、第18資料室にたどり着いた。
でも。なんだろう第18資料室って。なにか聞いたことがある気がする。
そう思った。
電気のついていない誰もいない廊下、
この階には監視カメラもついていない。
私は第18資料室の重たいドアを開ける。
(ぎーぃっ)
「失礼します」
と私は言った。
中は明るく。
見た事のない男性が机に向かって仕事をしていた。
「部長に言われてきました。経理の……」
と私がそう言った瞬間。
意識がすっと消えた。
薄れる意識の中で私は思い出していた。
第18資料室に行った人間が消えたといううわさ話を……
……
私はから揚げ弁当を食べながら、
ヒモの彼氏のことを思い出していた。
心配なのは彼氏のご飯のこと。
ちゃんと食べてるかな。
それが心配だ。
彼は私の親子丼が大好物だ。
親子丼、カツ丼、チャーハン、かに玉、他人丼、角煮丼。
こればかり彼は食べてる。
彼氏には、正直助けに来てほしいとは思わない。
できれば関わらないようにしてほしい。
彼も身体を鍛えているとはいえ、あんなムキムキのゴリラみたいな連中には勝てないだろう。
幸い光熱費とか支払いはすべてクレジットカード支払いだ。
銀行にも貯金はかなりある。
3年帰らなくても、彼が支払いしないといけないことはないだろう。
問題は、その間待っててくれるかだ。
しかし私は帰れるのだろうか?
彼氏とまた生活ができるのだろうか。
粉飾決算がバレれば、検察が入るだろう。
そうしたら、この筋肉ゴリラ達のことも発覚するだろうし、
きっと私も救出される。
でも、それまでどのくらい時間がかかるのかという問題だ。
私には親兄弟がいないから、ここからの行方不明届は考えれない。
でるとしたら、彼氏だけ。
彼氏でも行方不明届は出せる。
でも……
そこから本格的な調査を警察が行うかどうかは。
まったく期待できない。
とりあえず、ご飯を作るという仕事ができたおかげで、
暇ということはない。
拉致されて一番苦痛なのが退屈だというのは、
意外だった。




