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ナンバーワン

精一杯の努力。

ボーナスつぎ込み50万の腕時計をプレゼントした女に

「ありがとう」

とは口で言い、

ヘルプの後輩に、

「あの程度の時計は先輩つけないですよ」

と言わせる。

こういう事を平気でする男。

どう思う?


それが俺のいた店のナンバーワンだった。


その男が今目の前にいる。

白いスーツに身を包み、

ギラギラに光った爪やすりで爪を丁寧に磨いている。


「ひさしぶりじゃん。どうなの?俺が恋しくなった抱いてやろうか」

とナンバーワンは笑った。


俺はこの店のナンバーツーだった。

だが色恋規制が入る半年以上前にホストはやめた。

元から色恋が嫌だったが、店側からの色恋圧がうざかった。


ホストという業界は。

システムが狂っている。

ブランド物で飾り立て、

金のないホストや男をゴミ扱いし、劣等感の回復のために。

女をカモにする。


金のあるなしなんて、永久に勝負がつかない。

ホストがただ見せびらかすだけのために、何人もの女たちが泣く。

OD。リスカ。狂った女たちのたまり場ではなく。

狂ったシステムに狂わされる男と女。

まるでバブル期の亡霊たちが、そこに溜まっているようだった。

すべての価値基準は金。

金のためなら、なんでもする。

そんな世界に女を巻き込みたくなくなった。

それだけだった。


今の女たちも全部、元ホスト時代の客だ。


「あいかわらず。良い肌ツヤしてんな」

と俺は言った。


「だろう。最近オーガニックのアボガドにはまってて、めっちゃお肌にいいんだ。お前にもやろうか」

とナンバーワンは言った。


こいつは大の美容オタクだった。


「あぁ俺は良い。ありがとうな。お前の勧めてくれる美容系全部いいもんな」

と俺は言った。


「だろ。で……今日はどうした。なんか浮かない顔してんじゃん」

とナンバーワンは言った。


「ほら。お前……すげぇ性格悪いじゃん。でも頭は良い。クズだけどキレる。でなもしお前が上場企業と戦うならどうする」

と俺は言った。


ナンバーワンの目が光る。

薄ら笑みを浮かべている。

「なに。面白そうじゃん。ガチな喧嘩」

とナンバーワンは言った。


「じゃねえよ。小説のネタだよ。俺の自叙伝っぽいのを書いて、なんか賞でも取ろうかなって思ってな」

と俺は言った。


「なんだそうか。つまんねぇな。俺だったらな。不正とか不祥事を探しまくって、それを金持ってる客に教えて、空売りしかけるかな」

とナンバーワンは言った。


「例えばな。そいつらがヤバイ連中とつるんでたらどうする?」

と俺は言った。


「それこそ簡単だよ。そのヤバイ連中の悪さの証拠をつかんで、警察にリークする。そしてヤバイ連中とつるんでいることを雑誌とか新聞社にリークして、その直前くらいに空売りしかける」

とナンバーワンは言った。


「なるほどな。最高にクズだ」

と俺は言った。


「おおうよ。サンキューな」

とナンバーワンは言った。


「じゃあ行くわ」

と俺は言った。


「ちょっと待て」

とナンバーワンは言った。

そして後輩ホストになにか持ってこさせる。


高級ブランドの腕時計だった。


「これな。俺持ってる時計だからお前にやるわ。これ角の質屋にもってけば買い取ってくれるから。俺の名前出せばいいから」

とナンバーワンは言った。


「おい。良いのか。自分で売ればいいだろう」

と俺は言った。


「断捨離?デトックス?なんかそんなのやってんだ。いいから持っていけ」

とナンバーワンは言った。


「あぁじゃあ貰っておくよ」

と俺は言った。


「じゃあ、コイツに送らせるわ」

とナンバーワンは言った。


そしてヘルプの後輩がついてきた。


ヘルプの後輩といくつか世間話をした。


「いま大嫌いな上場企業を一つ上げろと言われたらどうします」

とヘルプの後輩は言った。


「ペケポンカンパニー」

と俺は言った。


それを聞くなり、ヘルプの後輩は頭を下げて走り去っていった。


なるほどな。

やっぱりクズだ。

どこまでいっても抜け目がない。

俺はそう思った。


俺はナンバーワンの言った店に訪れた。


「おひさしぶりですね。話は伺ってます」

と店主は言った。


「あぁひさしぶり。これだ」

と俺はナンバーワンから貰った金を渡す。


「はい。たしかに、一応念のために、身分証明書のコピーだけとらせてください」

と店主は言った。


「はいよ」

と俺は身分証明書を手渡す。


「また。これヤバイ写真ですよね。せっかくのイケメンがだいなしだ」

と店主は言った。


「うるせぃ。あんたはどうなんだ」

と俺は言った。


「私のはもっとヤバい」

と店主はそう言いながらジャケットの胸ポケットから財布を取りだし、身分証明書を見せる。

財布には帯が入っていた


「久々に帯(100万円を帯で閉じたもの)なんて見た」

と俺は言った。


「我々現金商売ですからね。現金げんきんを切らすのは厳禁げんきんなんですよ」

と店主は言った。


「現金だけにな」

と俺は言った。


「現金だけに……、何をいってるんだか」

と店主は言った。


「……ウソ。あれ駄洒落じゃないの?かけてないの?」

と俺は言った。


「冗談ですよ。かけてますよ」

と店主は言った。


「……よかった。ツッコミミスかと思ったぜ」

と俺は言った。


「これはね。最近この界隈で流行ってるツッコミにさらにボケをのせる技ですよ」

と店主は言った。


「そうか。ところでどうだい景気は?」

と俺は言った。


「そうですね。あなたが店におられた時がピークでしたね」

と店主は言った。


「やっぱ、風営法の影響か?」

と俺は言った。


「ですね。うちなんかは、ほとんど色恋かけてるホストやキャバ嬢さんたちの持ち込みですものね」

と店主は言った。


「別の流れとかはまだ来てねぇの?」

と俺は言った。


「くればいいんですけどね。昔みたいな賑わいはもうないかもしれませんね」

と店主は寂しそうに言った。


「そっか。寂しくなるな」

と俺は言った。


「えぇ。それで買取金額は48万円です。確認の上こちらに受取のサインを」

と店主は言い、目の前に札束を用意した。


「おう。ありがとうよ。」

と俺は言い、札束を確認する。

「懐かしいな。

昔はこうやってよく数えたもんだ。

そして、チョコレートの空き箱に金を隠してな」


「ちょうど100万円きっちり入るチョコレートの箱があるんですよね。」

と店主は言った。


「そうそう。ホストとキャバ嬢はだいたいチョコレートの箱に現金隠してたよな」

と俺は言った。


「それで家族に捨てられたり、同僚に盗まれたりとかね。銀行に入れにくいお金が多いですもんね」

と店主は言った。


「まぁな。全員が全員……まじめに申告するわけじゃねぇからな。でも……意外と税務署は賢くって、申告しんこくしなくって深刻しんこくな事態になる奴も多かったな」

と俺は言った。


「しんこくだけにね」

と店主は言った。


「しんこくだけに……、何をいってるんだか」

と俺は言った。


「そうそう、そういう返し。さすが元ナンバーツー」

と店主は笑った。


「おうよ。じゃあ行くわな」

と俺は言った。


「ところで、厄介な相手とやり合うんでしょ。これ持っていってください。

せめても餞別です」

と店主は言い、おどろおどろしい色をした指輪を渡した。。


「なにこれ?」

と俺は思わず手を引っ込めた。


「呪いの指輪です」

と店主は真顔で言った。


「呪いの指輪って、ただでさえ厄介な相手なのに、幸運の指輪とかじゃないの?」

と俺は言った。


「あなたがつけるんじゃなくって、相手側に送りつけるか、相手の敷地に放り込むか、そういう感じでするんですよ」

と店主は言った。


「おおなるほど。でも俺持ってたらヤバイじゃん」

と俺は言った。


「大丈夫。この袋に入っていると大丈夫。だから相手に送る時は、袋から出してね」

と店主は言った。


「OK」

と俺は言った。


「で……相手は?」

と店主は尋ねた。


「ペケポン……」

と俺は言った。


「OK。じゃあ。ちゃんと指輪使えよ」

と店主は言った。


「OK。じゃあ」

と俺は店を出た。


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