ナンバーワンの暗躍
俺は某ホストクラブのナンバーワン。
気にかけてた男が店に来た。
もういまはやめた店のナンバーツー。
「抱いてやろうか」
と言ったが、断わられた。
ひさしぶりに嗅いだあいつのニオイ。
よかった。
興奮するというか、安心するというか。
なんなんだろうな。
あいつは。
すげぇいい男だ。
ホストをやってると、女好きだと思われるが、
全員が全員、女が好きなわけじゃねぇ。
俺のように男が好きな奴もいる。
まぁ多くはないし、誰も口に出さないけど。
そういう奴もいる。
あいつが言ってたあの話。
これは金のニオイがする。
そう俺は感じていた。
ペケポンか……。
俺はあらゆる人脈を使ってネタを探し始めた。
……
高校生の頃、俺は一人の男の先輩を好きになった。
そして告白しようと思っていた時、先輩に
「お前なんか気持ち悪い。俺……女が好きなんだ」
そう告げられた。
俺はヘラヘラ笑うしかできなかった。
否定も肯定もできず、ただ笑って、そして壊れた。
その後、先輩に彼女がいるのを知る。
良いところのお嬢さんらしい。
俺は先輩の彼女と接触し落とした。
彼女に別れ話をさせ、先輩の前でいちゃついた。
あの時の先輩の顔っていったら、録画したいほどに、最高だった。
気持ち悪いと罵った後輩に、彼女を取られる。
絶望的だっただろうな。
本当に面白かった。
それから先輩が彼女を作る度に、その彼女を落とした。
それは先輩が卒業するまで続けた。
その女たちは、先輩が卒業してから、捨てた。
どうでもよかったからね。
……
俺は後輩のホストと一緒に、ペケポンの前に張った。
厄介そうな連中が出入りしていれば、そいつをつける。
それだけでも結構情報が抜ける。
その中に、一人見知った顔があった。
高校生の頃好きだった先輩だ。
真っ黒に日焼けしたのは、あの当時と変わらない。
俺は後輩に尾行させる。
先輩とペケポンの関係は……。
2時間後、後輩が戻ってきた。
後輩曰く、先輩はペケポンの関係者で、年齢の割に出世が早いエリートらしい。
俺は「はぁっ?」と思った。
先輩はアホだった。
まぁ俺をふったという私怨は別として、
アホだった。
何度も留年しかけたし、先輩の彼女たちも俺が口説いたというのもあるが、
先輩のアホさにあきれていたから、ちょろかったというのもあった。
そのアホの子が……、エリート?しかも年齢の割に出世が早い。
これが異常だった。
なにかある。
あのアホが、エリート。
そんな訳がない。
まさか。あの先輩は外見的には先輩でも、中身は違うとか。
その可能性はある。
これは確かめねば。
……
俺は先輩の中身を確かめるべく、変装をした。
メイクを落とし、高校の時に近いイメージで、紳士量販店のスーツを着た。
その姿に、後輩たちはめっちゃ受けていた。
自分でもその見た目のイケてなさに泣きそうになった。
仕方がない。これも調査だ。俺は先輩を尾行させ、行動パターンを全部調べあげた。
そして決行日。
先輩に近づく。
「あれ……先輩じゃないっすか」
と俺は言った。
「あぁお前……なんだよ」
と先輩は言った。
「なんだよって寂しいじゃないですか。お久しぶりです」
と俺は言った。
「あぁひさしぶり。お前なにやってるの?」
と先輩は言った。
「普通のサラリーマンっすけど、副業もね。会社名は恥ずかしいので聞かないでください。先輩のも言わなくていいっすから」
と俺は言った。
「おうわかった。副業ってなに。それ美味しい奴」
と先輩はのめり込んだ。
「気になります?」
と俺は言った。
「いや。気にはならねぇけど」
と先輩は言った。
明らかに気にしている。
俺は先輩の服をチャックする。
ペケポンの他の社員に比べて、高級そうなスーツ。
でも……
なじんでない。なにか違和感がある。
「先輩エリートみたいっすね」
と俺は言った。
「おっわかるか。俺は会社では出世頭って言われてるんだ」
と先輩は言った。
「先輩って成績は悪かったけど、地頭っていうか、悪賢いっていうか、頭良いところありますもんね」
と俺は言った。
「お前鋭いな」
と先輩は言った。
「いや。みんな影で言ってましたよ。あいつはスゴイって」
と俺は言った。
「えっそうなの?」
と先輩は言った。
「気付いてなかったんすか。そうそう〇〇って店あるじゃないですか。行きません。御馳走しますよ」
と俺は言った。
「〇〇ってあの?予約取りにくいって有名な店じゃねぇの」
と先輩は言った。
「まぁそうっすけど。先輩くらいのステータスの人なら別に普通でしょ。ねぇお願いしますよ」
と俺は言った。
「そこまで言われたら、断われねぇな」
と先輩は言った。
先輩の嬉しそうな顔。
あとでどやるんだろな。
ははは。こいつはこの歳になってもアホだな。
しかし、少し気になるのは、時折みせる。あの虚ろな表情だ。
なにか……、
やってるのかもしれない。
……
店に入って俺はワインリストに目を通す。
「先輩、持ち合わせ少ないんで、少し安いワインになりますけど良いっすか」
と俺は言った。
「ああいいよ」
と先輩は言った。
俺は25万のワインを一本開ける。
「すいません。25万のしか開けれませんでした」
と俺は言った。
「そんなにする奴。頼んだの?」
と先輩は驚いていた。
「いやいや。先輩のステータスからしたら、25のワインくらい、安物でしょ。まぁどんどん飲んでください」
と俺は言った。
「おぉわかった」
と先輩は言った。
俺はあまり飲まず、先輩にどんどん飲ませていく。
途中トイレに行った先輩についていき、確信した。
この男……やってる。
あの特徴的な尿のニオイ。
完全にグレーだな。
店で昔話をしながら、先輩をどんどんおだてて、どんどん飲ませていく。
そして二軒目に連れ出す。
二軒目のバーで少し飲ませてから
手で注射の仕草をしながら
「ところで先輩はなんで始めたんすか。
やっぱ仕事がらみで紹介受けたんすか。
定番ですもんね。
エリート層は」
と俺は言った。
「えっなんで知ってる?俺言ったか」
と先輩は言った。
「さっき話してくれたじゃないですか。
それにエリート層では普通っすよ」
と俺は笑った。
「あぁそうか。会社の上司からな、もらってな。それからたまに買うようになった。そうかエリート層では普通なのか」
と先輩は言った。
「いや。先輩とあろう人が、そんなの知らないなんて、ウソでしょ。もしかしてからかってます」
と俺は大笑いをした。
「いや。からかってねぇんだけど。ほら捕まったらヤバイじゃん」
と先輩は言った。
「先輩。たぶん先輩のレベルなら上場企業とかでしょ。そういう所だったら、捕まっても会社名出して、上司にもらったって言っとけば、すぐ話終わりますよ。ズブズブ」
と俺は言った。
「そうか。そりゃ安心した」
と先輩は言った。
「ところで大体みんな持ち歩いてますけど、先輩どうしてるんすか。超気になります」
と俺は言った。
「俺は靴の中敷きの下よ」
と先輩は言った。
「さすが半端ないっすね」
と俺は言った。
……
俺はそのあと、ペケポンについての情報を投機が好きな連中に流した。
あとは、タイミングを見計らい、空売りをしかけて、先輩のことをリークするだけだ。




