第6話:元の神殿が崩壊しましたが今の私には関係ありません
「……リリア様、神殿が、崩壊したとの報せが……!」
「へぇ」
「…………」
「……え? あ、反応いる? いやでも、特に未練ないんだけど」
「い、いえ、あの……一応、元・聖女として何かこう……驚愕とか、涙とか……」
「“むしろまだ崩れてなかったのか”って感じよ」
私は、薬湯の湯加減を確認しながら、無表情で言った。
教会からの緊急報告──王都聖堂が、神託の最中に突然崩壊したという内容。
「で、死者は?」
「幸いにも神官数名が軽傷で済みましたが……“神の怒り”とも、“悪魔の啓示”とも噂が飛び交っております」
「なるほど。じゃあ私は“悪魔の婚約者”ってことになるのかしら。何それちょっとカッコいい」
その頃、魔王ジルハは珍しく自室で書簡をにらんでいた。
「……聖堂内の“聖魔石”が、突如暴走したらしい。あの石は、神聖術の供給源。普通は暴走などしない」
「それってつまり、“暴走させた何か”があったってこと?」
「あるいは、抑えていた“何か”が消えた……」
私は、ポケットから取り出した小瓶を見つめた。
そこには、かつて私が持っていた“聖女の印”から削り取った石の欠片が、静かに沈んでいる。
「まさかね……あの石、ずっと気になってたの。なんというか、“流れすぎる”のよ、魔力が。まるで本来の道じゃない水を無理やり押し込んでるみたいな」
「神の奇跡とは、そういうものだろう?」
「違うわ。癒しって、“満たして戻す”もの。破壊したあとに救いを差し出すのは、ただの支配」
私は静かに言った。
「神様がどうとかじゃない。ただ、あの神殿は、癒しの形を……間違えてたのよ」
数日後。魔王城に一通の書状が届いた。
──《聖堂騎士団・解散》
──《聖女リリアの追放処分は無効》
──《新聖堂の再建とともに、正式に謝罪と招請を》
「……私、戻る気ゼロだけど」
「ならば拒絶すればいい。これはただの名誉回復だ」
「名誉ねぇ……どうでもいいけど。薬草育ててる方がずっと性に合ってるし」
私は空を見上げた。
あの神殿で“感謝されることを禁じられた日々”より、いまのほうがずっと暖かい。
「教会の人たち、いつかちゃんと“人を癒す”って意味を考え直す日が来るといいけど」
「そうだな。だがその時も、お前はここにいる」
「うん。ジルハがいるし、薬草もあるしね」
「畑仕事も、増やしてやる」
「それは断固拒否するわ」
笑い合う私たちの後ろで、魔族の子供たちが薬草風呂にはしゃいでいた。
癒しはここにある。私にはそれで十分。