第3話:魔族が病気にかかるとこうなるらしい
「う、うううぅ……胃が、胃がねじれるようでございますぅ……」
早朝の畑に、地響きのようなうめき声が響く。
見ると、全身筋肉でできてそうな魔族の戦士が、地面にのたうち回っていた。
「うわ、どうしたのよ。朝っぱらから大騒ぎね」
「……これは、ルガンという部下だ。見ての通り、胃痛らしい」
魔王・ジルハが腕を組んで言うが、ルガン本人は涙目で苦しんでいる。
「胃……? 魔族が?」
「魔族も胃が痛くなることくらいある。……ただし、たいていの場合、死に至る」
「は!?」
思わず叫んでしまった。
「それ、軽く言ってるけどヤバい話じゃない!? なんでそんな繊細なの、魔族の胃!」
「神聖属性の残留や、瘴気の過剰吸収で胃壁が溶けることがある。薬は……ほとんど効かん」
「うわぁ……もう……わかった、診せて」
私はしゃがみ込み、ルガンの腹部に手を当てる。
確かに魔力の流れがおかしい。瘴気が逆流して胃袋に負荷をかけている状態だ。
「これは……強い酸を中和しないとダメね。けど魔族って、アルカリ系の薬が過剰反応するし……うーん……」
少し悩んで、私は背中のポーチから乾燥させた甘露花の粉末を取り出した。
これは体内の魔素を穏やかに整える作用がある。
「これ、飲ませて」
「……人間の薬か?」
「うん。でも、ちゃんと魔族向けに調整してる。試してみる?」
ルガンはぐったりしながらも、こくこくとうなずいた。
「ほら、一口……って、あ、ちょっと苦いかも」
「んぐ……うう……あれ?」
ルガンの顔がみるみる明るくなる。
しばらくして、彼はふらりと立ち上がった。
「……治った。胃が、軽い……生き返った気分でございますぅ!」
「よかったー。まあ、胃袋破裂してなくてなによりね」
「おぬしは……薬の神か……!?」
ルガンは突然、私の手をがしっと握ってきた。
「拙者、今後は命を懸けてあなたをお守りいたすでございますぅ!」
「え、いや、ちょっと。重い! 物理的にも感情的にも!」
そんなやり取りを見て、ジルハが笑った。
「これでお前の薬の実力、魔族たちにも示せたな」
「別に示すつもりなかったんだけど……」
「だがもう、遅い。これでお前は、“魔王直属の癒し手”だ」
「勝手に役職つけないで!」
──こうして、私は「聖女→薬草女→魔王軍医」へと、しれっと昇進(?)した。
魔族の治療は、効きすぎてびっくりするし、噂の広まりも早すぎて困る。
けれど、癒したあとの笑顔を見ると──やっぱり、ちょっと嬉しくなってしまうのだ。