妖刀カニバル
「今度は火の玉のお化けですね!」
「バリエーション用意しなくていいから! これ絶対――」
リビングランプは空中に浮かびながら、火の玉を射出してきた。
「やっぱり炎の魔法を使うんだね!」
「わっ! あつつ!」
狙われたアズレアが炙られている。
だが身に着けているタイトなローブはなかなかの魔法防御力があるみたいで、燃えてはいない。
「といってもノーダメージではないね! 速く倒そう! ……この剣で!」
この前ダンジョンで手に入れたものだし、ブロードソードをもっと使いたい。
そう思いつつリビングランプに向かって剣を振ったけど、しかしふわふわ漂うランプはひらひらと剣をかわしてくる。
しかも避けるたびに口の形になっている炎がにやにや笑っている。ぐぬぬ。
落ち着いて『ヘクトアイズ』の力で軌道を予測するんだ。そうすれば攻撃を当てることもできる。
…………視えた! ここだ!
予測した場所に剣を振るうと見事に命中したが、しかしランプの反射神経もさるもので、普通の生物では無理な空中での急ブレーキと方向転換で直撃は避けてきた。
残念、一撃で致命傷とはいかないか、予測はできても僕の剣の速さと強さはたいしたことないからなあ。
「ロッククラッシュ!」
バリーンと大きな音を立てて、ランプが岩に粉砕された。
「ふんー」
「おお、すごい破壊力」
ランプが僕の攻撃を逸らして油断してたところに、いい一撃が入ったね。
しかしこの当たれば一撃の威力、アズレアに攻撃を任せて僕が守るのが効率的かな。
人面の盾を構えてアズレアの前に立つと、アズレアも察してくれたようで頷いて魔道書に魔力を込める。
そうはさせまいとランプ達がさらに火球を飛ばしてきた、けどそれは僕が通さない。
さらに呪いの反射がランプにダメージを与え、バランスを崩してふらついたところにロッククラッシュが直撃してランプを粉砕。
「コンビネーション超いいですね!」
「うん。この調子でいこう」
残ったリビングランプも同様の方法で倒して、廊下の清掃は完了した。
あとは、進んで行けば呪いの剣が手に入――。
ドンドンドン!
ガチャガチャ!
ギィィ……!
不穏な物音。
それとともに廊下と面した部屋のドアが次々と開いていき。
「な、なんですかこのモンスターの量!?」
ぞろぞろとモンスターが廊下に押し寄せてきた、その数は10,20いやもっとだ。リビングアーマーやリビングランプ、さらに初見の動く壷のモンスターまでいる。大人気すぎるよ僕達。
「ここまでモンスターを集めていたなんて。これはもう相手してたらキリがないね」
「どうするんですか?」
「速攻でコレクションルームに行こう。呪いの源を僕が手にしてしまえば収まるはず」
「なるほど、その方が地道に倒すよりいいですね。行きましょう!」
僕とアズレアは押し寄せるモンスターから逃げながら、廊下を奥まで行き突き当たりの部屋に入る。
中にいたリビングアーマーの攻撃を盾で防ぎ、足を止めずに地下への階段を下りる。
地下室の扉を勢いよく開くと、そこは意外なほどに静かだった。
立ち入ってはいけない神聖な場所のようであり、その異様な空気感の中心は、奥にある一振りの朱色のそりのある剣。間違いなくあれが目的のものだね。
「あれです、エンジュ!」
「うん、一目でわかったよ。あの風変わりな形――話で聞いたことある。カタナってやつかな。もらうよ、呪いのカタナ」
「わっ! もう来ました! 早く早く!」
コレクションルームにモンスター達が殺到する。
緊急事態ではモンスターにとっての神聖さも関係ないらしいね、でも、間に合った!
モンスターの先陣を切っているのはさっきのランプのやつら。僕はその動きを予測し、妖刀を素早く振るった。
次の瞬間、ランプが真ん中から二つに切れて地面に落ちた。
……当たった!?
しかも斬れた!?
さっきは動きを予想しても相手に見てからかわされたのに、それができなかった。ということは……僕の剣が速く、さらに真っ二つにするほど切れ味鋭くなってる。
この呪われた剣の力だ――。
赤い刀身に魅せられていると、ガチャガチャという音で我に返った。
今度はリビングアーマーが僕に斬りかかってきている、けれど今なら!
盾でまずは防ぎ、そして妖刀を袈裟斬りに切りつける。
なんだこの手応え。
まるで布を断つように、鉄の鎧のモンスターを切り裂くことができた。リビングアーマーは地面にガラガラと音を立てて崩れゆく。
「す、すごいです! 鎧がケーキみたいにすっと斬れてますよ!? それが呪いの剣の力なんですね!」
「うん、そうらしい。これなら一気に片付けられる。やろう、アズレア」
「はい! 反撃開始です!」
僕らは押し寄せるモンスターを迎え撃つ。
静かになった地下には、色々なモンスターの残骸が散らかっていた。
妖刀で切られた鎧やランプ、岩で割られた壷。掃除はずいぶん大変そうだ。
「なんとかなったね。それに、新手はもう来ないみたい」
「モンスターを引き寄せる呪いもなくなったみたいですね。剣としても強かったし、やっぱりエンジュにぴったりでした」
背中に担いだ妖刀をアズレアが後ろに回り込んでしげしげと見ている。
すると、僕の頭に以前と同じように情報が流れ混んできた。
《妖刀カニバル:人肉を食らう人斬りが愛用していた巨大な刀。朱い刀身には固まった血のシミのような黒ずみが所々にあるが、それが異形の芸術性を作り上げている。肉に限らずあらゆるものを断つ切れ味と、人斬りの魂が宿る剣術の素養が手に入るが、塗り込められた血と魂の呪いから人肉以外のものに体が拒否反応を起こし養分にできなくなる》
……思ったよりだいぶエグい品を手に入れてしまった。
「じっと考え込んでますけどエンジュ……あ、もしかして呪いの装備のことわかったんですか? どんな装備なんですかそれ? 気になります気になります」
興味津々に目を輝かせているアズレアに、僕は今知った情報を話した。……ら、ほらー、目を細めて後ずさりしてるじゃないか。
「なぜ逃げる」
「い、いえ、逃げてなんか。私をおいしそうだなあって気分になってません……よね?」
「じゅるり」
「ひぃっ!」
「冗談だよ、なるわけないでしょ」
「驚かさないでくださいよー。でもこれだけ毎回完璧に無効化できるなら、本当にどんな呪いでも効かないんですね。すごいです」
「これで攻撃力も大幅アップして盤石だ。アズレアがここを紹介してくれたおかげだよ。……あ、ここの主に報告した方がいいのかな」
「そうですね。放棄したとは言え所有権は一応まだ主のものではありますし。館の呪いが解けたら喜ぶでしょうし、大きくなった私の姿も見せちゃいますか」