目目目目目目目目
アズレアの道案内でダンジョンを進んで行くが、件の宝物庫までは案外長かった。思ったよりだいぶ逃げてきてたんだな、なかなか大変な
「痛っ!」
「大丈夫ですか!? これ、石壁がめくれてギザギザに……あのライカンスロープが追いかけながら暴れた時になったみたいです」
壁の石材が壊れて尖った部分で足を切ってしまった。モンスターからは身を守れたのに、こんなとこで怪我をするとは。
「大丈夫です、ポーションありますから!」とアズレアが出してくれた瓶の薬液をかけたらすぐに回復。
それはありがたいけど、でもあの盾があってもこういう怪我は防げないのはネックだな。まだ万全じゃない。呪いの装備、もっと集めないといけない。
と考えていると、他と雰囲気の違う部屋にたどり着いた。
壁が山吹色で、赤い古代文字が一面に書き込んである異様な部屋で、明らかに他とは様子が違い、さらに部屋の奥には石の棺が存在感を放っていた。
「見るからに何かありそうだね」
「はい。ライカンスロープはあの棺をカリカリと引っ掻いていたんです」
「中に強い魔力を持つものがある可能性が高いってことだね」
モンスターは魔力が栄養源だ。だから魔石やマジックアイテムに引き寄せられる。それがダンジョン攻略が一筋縄では行かない理由なんだけど、逆に言えばモンスターを見れば期待値アップということにもなるんだよね。
「あんなに強いモンスターがいたってことは、期待大ですよ」
アズレアはうきうきを隠さずに石棺に近づいて行っている。
僕も近付くが――ぶるっ。
「この感覚は! 待って、アズレア」
「どうしました? エンジュ」
背筋に走る寒気、ぬるっとした空気の感触。
『負の連鎖』が安置されていた祠の扉に手をかけた時と同じだ。
「多分この棺の中には呪いの装備がある」
「えっ」
「うん」
「呪い、わかるんですか」
「ギフトのおかげかな、呪いの気配わかるんだ。この石棺の中からビリビリに匂い立ってるよ」
「くんくん、苔っぽい臭いしか私にはしません。でもエンジュが言うなら、きっと呪いなんですね。……えーーー」
アズレアはガックリと肩を落とした。
「モンスターに追いかけられて死にそうな目にあったおどの宝物なのに、呪われてて使えないなんて。さすがにちょっぴり超ショックです」
「お気持ちお察しいたします。悪いけど僕にはいいことだった」
「あ、そうでした! エンジュは呪われたものでも使えるんですものね! しかも、すごく強力な効果の装備を。だったら問題ありません。むしろよかったです。あのモンスターを倒したのはエンジュですし」
「そう言ってもらえるとありがたいよ。じゃあ、開けるね」
こくりと頷くアズレアを横目で見ながら、僕は石棺の蓋を開いた。
禍々しい妖気が立ち上り、石棺の中があらわになる。そこにあったのは――。
「ひぃっ。これ、これは……」
「100%呪われてるね、能力関係なくわかるよ。誰でも、絶対」
だって、棺の中にあったのは人間の眼球が何十個も埋め込まれた異形の兜だったんだから。
「頭にフィットする丸形兜みたいだね。材質はあまり固くはないから防御力はそこまでなさそう。兜と帽子の中間みたいな感じかな。特殊効果は当然あるだろうね、こんな目だらけなんだし――」
『ヘクトアイズ:知覚を強化し、容易に危険予測を可能にする。だが集められた瞳は邪眼となり果て、その魔力は装備者の動きを止める』
装備を手に取ったその時、頭の中に情報が入ってきた。
兜を手にしたまま僕は停止する。
なんで頭の中にこんな声が? 前の盾の時にはこんなことなかったのに。
「うーん……?」
「どうしましたエンジュ?」
「前は呪いの装備は使えても効果まではわからなかったんだけど、今これを手に取ったら、これがどういう性能と呪いがあるかがわかったんだ。頭の中に直接声が聞こえたような、文字が書き込まれたような感じがしてさ。どうして変わったんだろうって」
「それって、きっとギフトの進化ですよ!」
「進化?」
「はい、ギフトは使っていると成長するんです。そうすると新しいことができるようになったりするんですよ。それを進化って呼びます」
「そんなことあるんだ。ということは……そうか! あの呪いの盾を何度か使った……つまりギフトの力を何度か使ったから、それで『呪呪呪呪呪呪呪呪』が進化したってことか、なるほど。よかった、アズレアを助けるために使って」
この進化はすごくいい。
どういう力とどういう呪いがあるかは、呪いの装備を使う上で絶対欲しい情報だ。
そしてわかったこのヘクトアイズ、すごく性格が悪い呪いだな。
周りがよく見えて危険の予測も可能になるのに呪いで動けなくなる、ってひどいコンボだと思う。
危険が迫ってくること痛みが来ることははっきりわかるのに、それを防ぐことはできなくなるんだから。見える分恐怖が倍増するっていうね。
呪いを反転できるギフトを持ってて本当によかった。こんな性格悪い呪いに引っかからずにすむんだから。
感知能力が増すというメリットだけ使えるなら最高だよ。まさに僕が求めているものだ。
僕は頭からすっぽりと『ヘクトアイズ』をかぶった。
瞬間、景色がクリアになった。
視界の隅から隅まで微に入り細を穿つように見え、さらに視野の広さまでもが拡張されている。その中にある全てをはっきりとわかり、躓きそうな石床の凸凹にも一瞬で気付いてしまった。
アズレアのことも良く見えるなあ、顔を背けて目を伏せて口を歪めている恐れおののいた表情も。
えっ。
「どうしたのアズレア、そんな顔して」
「怖いんですよ! その装備が!」
「あ、なるほどね。ちょっと禍々しいかもね」
「ちょっとじゃないです。超ですよ。本気で使うんですかそれ?」
「だって、物凄く良く見えるんだよ。目を凝らすとアズレアの毛穴まで見えるくらい」
「えっ、気持ち悪い……」
「まあ、装備の見た目は気持ち悪いかもしれないけど我慢しよう」
「今気持ち悪いのは装備よりエンジュです」
えっ。