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狼と少女 

 今の声は、誰かが助けを呼んでる?

 声の聞こえた方向は――。


「いやあっ! 来ないでください!」


 右の通路からだ! 走れ!


 声の方に全力で向かって行く。

 二つ目の小部屋に声の主はいた。


 それはタイトなローブを着た、魔法使いらしき女の人だった。

 水色の髪を編み込みにして左肩へ垂らしているその人は、尻餅をつきながら、手には魔道書を持ちながらも、モンスターに追い詰められていた。


 モンスターは――ライカンスロープ!?

 人狼であり、俊敏で強力な牙と爪に体毛の鎧を持つゴブリンとは比較にならない強力なモンスターだ。


 こんな低ランクダンジョンの低階層には普通いないはず……だけど、理由を考えてる暇はないね、行かなきゃ!


「諦めません……ロッククラッシュ!」


 僕が走り出すと同時に、女の人も反撃を試みていた。

 手にした魔道書が光り、頭ほどの大きさの岩が出現しライカンスロープ飛んでいく――が、ライカンスロープは俊敏に横に跳んで岩をかわした。


 そして大きく爪を振り上げ、


「間に合った!」


 僕は二人の間にギリギリ滑り込んで、呪いの盾を爪の方へ両手で掲げた。

 直後、空を走る黒い爪痕。


「オオオオオンンン!!!」


 人狼の爪の重さを僕が感じたとほぼ同時にライカンスロープの顔の右半分が引き裂かれた。血が噴き出し毛皮を赤く染め、片目も塞がり苦痛によろめく。


「追撃をお願い!」

「え? あ、は、はい!!!」


 女の人は再び岩の魔法を、怪我をした顔面を狙って放つ。


「グオオオオオオアア!!!」


 今度は命中。

 目が塞がって死角となっているし、苦痛で動きが止まっているし。


 あと一押し、有効打を入れれば勝てる。

 そのためには、これだ!


 僕はナイフを振りかざし、ライカンスロープに突き刺そうと突進した。


 それを見たライカンスロープは目に再び凶暴な光を燃え上がらせた。近付いて来たのをチャンスと捉え、反撃に転じてきたのだ。

 下から切り上げるように爪で引き裂こうとしてくる……けれど、それは狙い通りだ。


 ナイフを持ってる右手ではなく、左手に意識を最初から集中してる。

 目線もナイフを刺す先ではなく、モンスターの爪に最初からおいていた。


「誘いに乗ってくれてありがとう」


 だからすぐに動ける。

 すぐに盾でガードができる。


 切り上げた爪が切り裂いたのは、僕の顔ではなく盾に貼り付けられた顔だった。そして、黒い爪痕がライカンスロープの顔も切り裂き。


 喉から頭へ引き裂かれたライカンスロープは、声をあげることもできずに仰向けに倒れて動かなくなった。




「本当に、本当にありがとうございました。あなたが来てくれなければ私は今頃狼のお腹の中でした」


 僕はダンジョンの一室で深々と頭を下げられていた。


 彼女の髪は、澄んだ氷を思わせる柔らかな水色で、その長い髪は丁寧に編み込まれ、しとやかに左肩へと垂らされている。

 薄く微笑む唇と、伏し目がちに揺れるまつげが、彼女の穏やかな気性を物語っていた。そしてお礼をするその所作からは、品の良さが感じられる。

 ダンジョンの中でそこだけ別世界みたいだ。


「全然気にしないで。それに君の魔法も効いてたし。君も一人でダンジョンに?」


 彼女は首を横に振った。


「いいえ、まだ経験が浅くて一人では不安だったので先輩の冒険者の方と一緒に来たんですけど、あの人狼に出会った途端、全速力で先輩達が逃げ出してしまったのです。そして一番足の遅い私が狙われて……」

「それはひどい話だね。一緒に組んだならカバーしなきゃ」

「なので助けが来てくれた時は本当に嬉しかったです。すごいですね、その盾。あんな上位モンスターの攻撃を完璧に受け止めてましたし、それに不思議な反撃もしてました。始めて見たんですが特別な魔法ですか?」

「いや、あれは呪いが反転したやつで――」

「呪い? ………………え、あ、ひぃああああ!!!」


 あ、これはまずいかも。

 彼女の目が呪いの盾の表面に釘付けになっている。


「えっ……これ、これ、人の顔が貼り付けて?」

「うん、だけどこれには理由が――」

「ああ……私もこの顔の仲間入りなんですね……。狼に食べられるかわりに、殺されて盾に貼り付けられるなんて、前門の虎後門の狼というものですね」

「いや、殺したりしないよ」

「生きたまま剥ぐ!? ああ……もっと恐ろしい未来が私に待っていました。もはや後門の魔王です」

「なぜそっちにいった」


 絶望していた彼女だったが、僕が自分のギフトを説明し、それを活用するためにこの盾を手に入れて使っていることを説明するとようやく彼女は落ち着いた。


 彼女はバツが悪そうに。


「そ、そうでしたか……ごめんなさい、助けてくれた方に失礼なことを……」

「気にしなくていいよ。知らなければ不気味に思うのはしかたないよ」


 しかし彼女は首を大きく横に振った。

 肩に垂れている編み込みの髪もあわせて大きく揺れる。なんか目で追っちゃうよね、こういうのって。


「いいえ、助けてくれたお礼と失礼に取り乱したお詫びをさせてください。そうでなければ私の気が済みません」


 僕は別にいいんだけど、彼女の目からは絶対にひかないという意思を感じるなあ。じゃあせっかくだしお礼してもらおうか。


「……といっても私も駆け出しの身なので、命に釣り合うほどの金銭は持っていないのです、ごめんなさい……。だから、働きで返します! どんなお使いでもお願いでもやりますから、なんでも申しつけてください!」

「じゃあ一緒にダンジョンを探索しよう」

「そんなことでいいんですか?」

「僕も駆け出し、なんなら今日から始めたからね。新人一人じゃ心細かったんだ」

「そうだったんですか。もちろん、お安いご用です。むしろ私こそお願いしたいですよ」

「ありがとう、じゃあ、即席パーティといこう。僕はエンジュ=シャード。よろしくね」

「私はアズレア=フィニティスと申します。よろしくお願いします、エンジュ」


 不慣れなダンジョンを一人で行かなくてよくなったのは助かる。

 呪いのおかげで僕にも仲間ができました。

 って考えると、呪いもいいとこあるね。


「まだ行ける?」

「もちろんです」


 ライカンスロープに襲われた傷はたしかにそう重傷そうではないか。


「じゃあ、ダンジョン探索していこう」

「でしたら案内したいところがあるんです」

「何か見つけてたの?」

「はい。あのライカンスロープは、宝物庫みたいな部屋に入った時に追いかけてきたんです。逃げてここまでやってきましたけど、私、道覚えてます」

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