呪いとハサミは使いよう
僕はギフトにより呪いのマイナス効果は受けないけど、呪いの装備特有の外せないというのはどうも残ってるらしく……。
盾の表面が見えないよう裏向きで背負ったりとかなんとかしようとしてみたけど、どうやっても自動で僕の手に戻ってきて表を外に向けて、いつでも攻撃への防御は万全な態勢になろうとするんだよねこの子。
呪いを手懐けすぎて好かれちゃって離れてくれないみたいだ。
しかたないので装備したままギルドに入ったんだけど、案の定、人面の皮を張り付けたデザインにドン引かれています。
「あの、冒険者ギルドに登録して依頼とか受け……」
「ダメダメダメ! なんだいその盾は! どっからどうみてもヤバイ奴じゃん君! 闇の魔道師? 邪神のカルト教団? うちは清廉潔白なギルドだからそんな禍々しい人間はお断りだよ!」
「いえこれは僕が人間の皮を剥いだわけじゃなくて、そういう装備なんです」
「結局そういう装備使ってるじゃない! そんな呪われてそうな気味悪い装備使ってる人がいると、うちのギルドが質悪いと思われるんだよね。ダメダメ、仕事は斡旋できないよ」
ギルドの職員に話しかけたけど、取り付くしまもなかった。
でも僕は諦めない、職員がだめでも、ギルドにいる冒険者に頼んで一緒にパーティを組んでもらえば……。
「話しかけるんじゃねえ! 気味の悪いガキがよお!」
「俺は呪われた子と組むつもりはないんだ。縁起が悪いぜ」
「私は聞いたことがあるぞ、仲間に傷を肩代わりさせる呪いの盾があるって! みんなこいつと絶対に組むなよ!」
「いやああああ! 殺されるううううう!」
だめだった。
僕が呪いの装備を持っている、しかもかなり不気味めな呪いの装備だから、誰も仲間になってくれない。
ギフトで呪いのデメリットが無効化できるんだと説明しても、信じてもらえなかった。騙されないぞと罵られるだけの虚しい結果。
自分の能力を活かせる装備を見つけてこれからだと思ったのに。そのせいで皆から嫌われてしまった、孤独だよ。
でもこれを使わなかったら何も能力ない人だから、それこそ冒険者なんて無理だ。
「しかたない、一人で迷宮に行こう」
依頼も受けられない、パーティも組めないなら、必然的にやれるのはダンジョンに一人で潜り魔石や財宝を取ってくることしかない。
その魔石を買い取ってもらえるかという問題はあるけど……ギルドがダメなら鍛冶屋とか錬金術ショップとかもあるし、どこかしらは相手してくれる。……はず。
とにかく動かなきゃ始まらないし、出発しよう。
呪いの装備は性能自体は高いから、きっといける。……はず。
迷宮都市クザヤは迷宮都市という名前だけあり、近くに迷宮がいくつもある。そんな迷宮多発地帯を攻略していた冒険者のキャンプから始まった町がクザヤなので、むしろ迷宮が先にあったくらいの都市だ。
しかも迷宮は新たに生まれることもあり、いまだに踏破されていない迷宮がいくつもある。
けど、もちろん僕が行くのは踏破済みの迷宮だ。いきなり未踏破迷宮に行くのは無謀すぎるからね。踏破されてないってことはそれだけ危険で困難ってことだし。
それに踏破済みだからといっていいものが取り尽くされてるわけじゃない。迷宮は『生きている』。中のモンスターや魔石が自然発生したり、時には構造自体が変わることさえあるらしいんだよね。だから、踏破済みでもちゃんと行けば得るものはあるんだ。
「ここが『青火の迷宮』かあ。あ、ほんとだ青いホタルがいる」
迷宮都市の西方の山中にあるこの迷宮は、珍しい青く光るホタルがいてダンジョン全体が青く光っているのが特徴だ。
地面も壁も青く照らされた煉瓦のような石で作られた迷宮で、すごく幻想的。
でも見とれて迷わないようにしないとね。通路、小部屋、通路、大部屋、分岐、通路、みたいな構造で分かれ道がとにかく多いから、油断すると帰れなくなっちゃう。
ちゃんとどういう道順を辿ったかメモっておかないと……あ。
僕はメモをしまい、盾とナイフを構えた。
モンスターに相対するために。
小部屋の中にゴブリン3体がいた。部屋のカドにある紫色の石――魔石を囲んでいるが、僕が部屋に足を踏み入れると棍棒を振り上げて威嚇してきた。
低ランクダンジョンによくいる低ランクモンスターだけど、こっちも新人だから十分強敵。だからこそ、この呪いの盾の力を試すいい機会だ。
一番血気盛んなゴブリンが駆け寄ってきて、大きく振りかぶった棍棒を振り下ろした。
早速盾の出番だ!
僕は盾を棍棒の軌道上に構えて受け止める。
意外にも衝撃はほとんど感じない、さすが高性能な呪いの盾だと感心し――。
「これって!?」
――た時、予想外のことが起きた。
盾が苦悶の叫び声をあげ、黒い爪痕が空中を走ったのだ。
爪痕は攻撃してきたゴブリンと、その仲間の二匹のゴブリンに命中するとその胸元を鋭く切り裂いていく。
「グギャァッ!?!」
いったい何が起きたんだ?
盾が攻撃したのか?
「グウウウ!!!!」
手痛い反撃を受けて怒りに燃えるゴブリンがさらに棍棒をぶんぶん振り回す。
しかし僕はなんと盾でそのラッシュを全て防ぎきってしまった。
僕がゴブリンの攻撃にあわせて防ぐだけじゃなく、まるで盾が導いているかのように的確に。
その直後、再び黒い爪痕が空中を走った。
だが今度はずっと太く長く鋭く、爪痕はゴブリン達の首から腹までを引き裂いた。
「ガ……ァ…………?」
今度は致命傷だった。
ゴブリンは何が起きたかわからない様子のまま、一瞬にして全滅した。
「なんとか勝てたね。……けど、何が起きたんだろう?」
攻撃を防いだのは、呪われた装備が呪い以外は高性能だから、そういうことだとわかる。
でもあの謎の反撃は? 反撃するなんて効果はなかったと思うけど――。
『呪われし盾《負の連鎖》。攻撃を受け止めるとその傷を仲間へ飛ばす呪いがかかっている。手にした本人は嫌になるほど守られるが、絆で結ばれた者は誰もいなくなるであろう。決して祠から出してはいけない。決して』
『攻撃を受け止めるとその傷を仲間へ飛ばす呪いがかかっている。』
まさか――呪いが反転したってこと?
そうだ、そうとしか考えられない。
呪いを無効化だと思っていたけど、そうじゃなく、呪いの悪い効果を逆転させる、それが僕の『呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪』の能力だったんだ。
ダメージを仲間達へと転送する呪い⇔ダメージを敵達へと転送する呪い
これによってゴブリン達は自分が盾に与えて吸収させたダメージを受けて自滅した。ラッシュした時は、その全てのダメージがまとめて返ったのでより強力だった。
僕は盾の顔達を見た。相変わらず苦悶の表情をしている。
あの呪いの叫びとともに出る黒い爪痕は、きっとこの顔が受けた痛みを返しているんだね、恐ろしい盾だ。でも便利だから使わせてもらうけど。
「理解できたよ、僕の能力とこの盾の能力。これがあれば、ダンジョン順調に進んでいける。それに」
僕はゴブリン達が見ていた魔石を背負い袋に入れた。
「初、ダンジョン報酬。これで冒険者としての一歩を踏み出せたって言ってもいいよね」
それもこの呪われし盾のおかげだ。
最初はこんな能力とんでもないと思ったけど、実はいい能力なのかもしれない。
こうなったらもう開き直って全面的に頼りにしていこう。
呪いの装備を。
「いやっ……助けてください! 誰か! 誰か声は届いてませんか!」
その時突然、ダンジョンの中に叫び声が木霊した。
盾の苦悶の叫びじゃない、女の人の助けを求める叫びが。