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大狩猟依頼大終了

 妖刀カニバルの、人肉からしか養分を得られなくなる呪い――それが反転し、魔物の肉から過剰な養分を得ることができるように僕はなっている。

 普通の栄養は僕らを生存させてくれるものだ。そして過剰な養分はというと生存以上、つまり僕を本来以上の力に強化してくれるものなんだ。


 化けキノコを炙って食べた僕は、それを消化吸収すると同時に強化状態になった。その強化を持ってアラクネを打ち破ることができたというわけだ。


「人食いの剣が魔物食いの剣になるなんてね。呪い、最高」


 いいねえこの妖刀。ずっと眺めていたくなるよ。

 ほら、この刀身の反りが上品だし朱色もきれい。そしてところどこにある黒い血が固まったようなシミが逆に単なる美しさだけじゃない魅力を追加している。


 ……ってそうだ、うっとりしてる場合じゃなかった、アズレアは!?


「アズレア! 大丈夫!? こっちは倒したよ!」

「大丈夫ですよー、エンジュ。私の方もなんとかなりましたー」


 木陰からアズレアがミニドラゴンと共に姿を現した。


「なんとかギガスパを倒したり凌いだりしてたのですが、数が多くて苦労してたんです。だけど少し前に突然皆ひっくり返ったんです。それで切り抜けられました」

「アラクネの手下だったのかもね。アラクネがさっき死んだから、それでギガスパも倒れたとか」

「ということは、アラクネを倒せたんですね、エンジュ! すごいですよ、有名なモンスターを! 熟練の冒険者だって迂闊に手を打せないのに!」

「呪いのおかげだね。アズレアも、プータ守ってくれてありがとう」


 プータに方に僕らが目を向けると、「キュウウウウウ」とドラゴンにしてはかわいい鳴き声をあげて頬を擦り寄せてきた。


「僕らが助けようとしたって理解してるのかな」

「みたいです。何も言わなくても私についてきましたし。頭いい子ですよ」

「そうみたいだ。じゃあ、プータをあの子のところに連れて帰ろうか。アラクネのことをサラに報告もした方がいいだろうしね」

「はい、そうしましょう。あんな大物モンスターを倒したとあったら、私達の大狩猟依頼は、大成功ですね!」


 アズレアと僕は勝利のハイタッチを決めた。

 するとプータも鼻をくっつけてそれに加わろうとしてきたので、僕ら三人は笑ってあらためてハナタッチをした。




 アラクネを倒した後は危険なモンスターに出くわすことは幸いにもなく、僕らは無事に森から出ることができた。


 森の外では、サラが女の子の面倒をちゃんと見てくれている。


「にらめっこしましょ、あっぷっぷ」

「むん」

「あははは、変な顔ー」


 身をかがめて女の子のにらめっこに付き合って変顔に集中していて僕らに気付いてないようだ。


「ただいま戻りました」

「なっ!? ぬ!?」


 はっとした顔になって背筋を伸ばしながらこっちを見るサラ。

 女の子の方もこっちを見て――。


「あっ!」


 僕らの姿を見るやいなや駆けてくる、いや、プータの姿かな。


「プーター!」

「ピーーー!」


 ぎゅっと抱き合って頬を擦り寄せる女の子とミニドラゴン。普通じゃ見ない奇妙な光景だけど……微笑ましいね。


「ごめんね、ごめんね、こんなとこに逃がしちゃって」

「ピィ、ピィ」


 気にするな、って言ってるように見えるな。

 僕らにも大人しくついてきてくれたし、頭がいいんだねこのモンスター。


「あ、あー、ごほん。うむ、無事に連れ帰ってくれたようだな」


 ずいぶんと顔が赤いなあサラさん。


「はい。サラさんも、女の子のことみてくれてありがとうございます」

「とっても仲良くなれたんですね。羨ましいです」

「う、うるさい! 騎士団の務めとして市民を守ったのだ! ところで他には不測の事態はなかったか? 帰ってきているということは、無事なようだが」

「それですよ、サラさん。報告しなきゃいけないことがあったんです」


 表情を引き締めたサラに、僕らはアラクネのことを話した。

 そしてその場に大狩猟依頼に参加した冒険者の遺体があったことも。


「アラクネだと!? A級指定されてる危険なモンスターがこんな町の近くの森に!?」「なんとか倒せてよかったです。それに、ギガントスパイダーも一緒にやられてました」「信じられない……騎士団ですらしっかりした部隊を作って挑むような相手なのに、君はいったい……。とんでもない手練れが加わっていたものだな。自分達にとっては幸運だったが、まったく驚きとしか言い様がないな」


 サラは僕に手を差し出した。


「本当に君が倒してくれてよかった。今日集まったメンバーではアラクネに敵うものはいなかっただろう。君が倒してくれなければ、被害者はもっと増えていたはずだ。食い止めてくれて感謝する。サラ=フランベルク個人としても、騎士団としても」


 僕はサラの手を握り返した。

 しっかりと力強い手だけれど、意外なほど柔らかい手だった。


 アズレアとも握手をしたサラは続ける。


「アラクネを倒すとギガントスパイダーも倒れたということは、大蜘蛛達は眷族だったということだろうな。それが呼び水となって他のモンスターも大発生したのだろう。アラクネを討伐したことで、大量発生もおさまるはずだ。お前達が大狩猟依頼を解決してしまったな。まったく、たいした者達だ」

「私達結構頑張っちゃったみたいですね」

「モンスター素材も結構とってきたし、しばらくは潤いそうだ」

「アラクネがいたことを話し、調査隊が確認すれば、特別報酬も出るだろう。楽しみにしていてくれ」

「わっ、本当ですか」

「運がいいね、僕達」


 ハプニングもあったけど、大狩猟依頼は無事に終わり、さらにプラス報酬まであるなんて、最高の結果に終わったね。

 僕の冒険者生活、軌道に乗ってきたかもなあ。


「ところで……」


 ん?

 どうしたのサラさん。


「あれが例のプータなのか? どうみてもドラゴンの子供なのだが」


 サラが目線をプータに向ける。

 言いたいことはわかるよ。


「間違いなくそうですね。飼えないってなったのも納得です」

「まあ、それは一般家庭でドラゴンを飼うのは無理があるな。あの子は外で遊んでたら怪我をしてるプータがいて、治療したら懐かれたと言っていたが、それがドラゴンだったとは。人に懐くというのも驚きだな」

「びっくりしましたけど、あの子が喜んでるから良かったですね」


 僕らがほっこりとプータと戯れる少女を見ていると、少女がプータと一緒にこっちに走って来た。


「ありがとう! おにいちゃん、おねえちゃん!」

「どういたしまして。プータが無事でよかったよ」

「それでね、それでね、おにいちゃんとおねえちゃん、プータすき?」

「え? まあ好きか嫌いかと言えば好きだけど」

「プータもすきってゆってた! わたしといっしょにいられないなら、おにいちゃんとおねえちゃんといっしょにいたいって!」


 僕とアズレアは目を見合わせた。それって、僕らがドラゴンを飼うってこと?


「ピィィィ……」


 プータが僕らに近付いて来てうるうるした真っ黒な目で見つめてくる。

 そ、そんな目で見つめられたら。


「どうしましょうか……?」

「……まあ、いいんじゃない? ドラゴン飼ったら強そうだし。大きくなったら背中に乗れるかもしれないし」

「ええっ!? 本気ですか?」

「うん。普段からモンスターの相手してる僕らなら、ドラゴンの面倒だって見れるし、ダンジョン行くときとか一緒に行って戦えば戦力になるしね。エサ代もそこで自分で稼がせればいいし」

「ピィ! ピィ!」


 小さい翼をぱたぱたさせて飛び跳ね、喜ぶミニドラゴン。やっぱりプータって、僕らの言葉理解できてるよね。

 これだけ賢ければ、依頼とかダンジョンでも絶対役に立つはず。僕の都合上人間とパーティを組みにくいから、ドラゴンの手も借りたい。餌代以上にプラスになると思うんだ。


 それに……まあ、もう一つ狙いがあるけどそれはまだ遠い未来の期待だから鬼が笑うかな。


「本当にいいのか? たしかに一般家庭よりは冒険者の方が面倒を見るには向いてるとは思うが、それでもドラゴンの子だぞ」


 サラも尋ねるが、僕は変わらず頷いた。


「そうか。それならいいが。何か困ったことがあれば、騎士団を頼ればいい。市民からの要望として、友人として、相談に乗ろう」

「ありがとう、サラさん。それじゃあ……」


 僕は女の子に顔を向けた。


「プータの面倒はちゃんと見るから、安心してね」

「うん! ありがとうおにいちゃん! プータにあいにいってもいい?」

「もちろん、来てくれたらプータも喜ぶと思うし」

「ピィ!」

「まあ、かわいいですしね、プータちゃん。張り切って私達が面倒見ちゃいましょう」


 アズレアも乗り気になり、話はまとまった。


 こうして大狩猟依頼は、多くのモンスター素材と依頼完了報酬、アラクネ撃破の特別報酬、そして騎士団の知り合いとペットのドラゴンの子供、と多数に渡るものを僕にもたらし、思っていた数倍の成果とともに完了した。

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