プータを探せ!
「じ、自分がこの子のお守りを?」
森の入り口で待機していたサラは、素っ頓狂な声をあげた。
「ちょうどよかったです。森の中で子供を見つけてどうしようかと思ってたけど、サラさんがいてくれて」
「頼りになりますね」
「待ってくれ、小さい子の扱いなんて自分はよくわからないというか、なんというか。戦闘的な意味でなんでも頼ってくれと言ったんだが」
慌てた様子のサラの顔を女の子が不安げに見上げた。
「おねえちゃん、めいわく?」
「い、いやもちろん迷惑なんてことはないぞ! 大船に乗ったつもりで自分に任せなさい」
ふうよかった、そう言ってくれるなら安心して任せよう。
「さすが騎士団ですね! じゃあ僕らは任務をこなしつつ、その子のペットも探しますから」
「私達がプータちゃんのこと見つけるから、ここでサラさんと待っててね」
アズレアが女の子の頭を撫で、僕らは再び森に戻っていった。
今日の任務に一つ追加だ。
***
そして一方。
森に入っていった二人を見送るサラと女の子。
「………………」
「………………」
「………………あー、なんというか。……そうだ!何か食べるか。携帯用食料に持ってきた干し肉があるぞ」
「…………うん! ありがとうお姉ちゃん!」
「ほっ……好きなだけ食べていいぞ、任務中の栄養補給にたくさんあるからな」
サラは干し肉を両手にいっぱい女の子に渡し、自分でも晴れやかな笑顔で干し肉をかじった。
***
モグモグ。
「うん、シコシコした食感がいいね。うまみもたっぷり」
「思い出しました、化けキノコは普通のキノコにも引けを取らない味だという冒険者の間での噂話を昔聞いたことを。信じてませんでしたけど、本当においしいんだモンスター……」
「うん、炙っただけでもいい味だよ。それに腹が減っては戦ができぬって言うしね。アズレアもどう?」
「え……うーん。一回、試してみちゃいましょうか! ……もぐもぐ……もぐもぐ……わあ! 本当に歯ごたえあるマッシュルームみたいです! おいしい! いつ戦闘が始まるかわからないから、コンディションも万全にしとくのはいいことですね。プータを見つけ次第助けたいですし。……プーター! いますかー? いたら返事してくださーい」
僕らはプータに呼びかけながら、森の中を探索していた。
声を出すとモンスターが寄ってきて、それを狩れるので地味に一石二鳥だということにも気付けてラッキーだったりもする。
「ペットが返事できるかなあ」
「名前くらいはわかるものですよ、ペットなら。そしたら鳴き声で返事してくれますよ。……ところでプータって鳴くんですか?」
「僕に聞かれても。羽の生えた丸っこい生き物って言ってたけど、そんな動物いたっけ」
「うーん、謎ですね。鳴く動物かもわかりません。でも、鳴き声上げなくても、名前を聞いて寄ってくることはありますよ。多分」
「そうだね。おっと、また大蜘蛛だ」
木の上から急襲しようと狙っている蜘蛛を発見。
もう手慣れたもので、安定して倒して蜘蛛糸を入手。
もうすでにかなりのお金を稼げたと思う。
アズレアへのこの前の借りも返せそうでよかった。
それにしばらくは食べるものの心配をせずにすみそうだしね。
実家に仕送りする余裕もできたらいいなあ……でもこの格好で帰ったら村で噂になりそうだな……都会に行って悪い仲間に染まっちまったな……って思われたらどうしよう。
「ねえ、エンジュ。何か聞こえませんか?」
「いや特に、鳥の鳴き声とか……あ、待って。なんかキーとかピーとか聞こえるような。ちょっと集中して見てみるね」
「お願いします。その眼球兜の力で」
「ヘクトアイズね。気持ち悪い呼び方やめてね」
ヘクトアイズの知覚強化を声のした方へ集中して向ける。
……見えてきた!
草木の隙間に、見慣れない動物と、人間の姿があるぞ。
人間?
僕はさらに目を凝らした。
***
「へへ、いいもん見つけたな」
エンジュが見た人間は、大狩猟依頼の始まりに絡んで来た長髪の男だった。
仲間の二人とともに、にやにやと何かを企んでいるような笑みを浮かべている。
その視線の先にあるのは、糸で吊るされた一匹の動物だった。
「ピーッ! ピーッ!」
「おー、おー、怒ってる怒ってる。その調子で騒げ騒げー。ギャハハ」
それは丸っこくて小さな翼が生えている、小さな太ったトカゲみたいな風貌の動物。ミニドラゴンと呼ばれるモンスターの一種。
「チビでもドラゴンはドラゴンだからな。こいつの魔力でモンスターをおびき寄せれば、効率的に狩りができるって寸法よ」
「いやー俺たちって頭いいな」
「冒険者たるもの、使えるものはなんでも使ってこそよ、へへへ」
冒険者たちは吊るされたミニドラゴンを見て下卑た笑みを浮かべている。
と、そこに化けキノコがやってきた。
剣を抜いて3人で切りつけて倒すと、物足りないというようにミニドラゴンに剣の切っ先を向ける。
「こんな小者じゃねーんだよなあ。俺たちが欲しいのはギガントスパイダーの老齢なんだよ」
「本当にいるのか? そんなんが」
「さっき遠くの方にいるのを見つけたんだ。お前らも知ってるだろ? 珍しい老齢体が金の糸を作ること」
「ああ、そりゃ知ってるけど。そいつをおびき寄せられたら、最高ってことだな。強さはちょいとギガントスパイダーより上だが、ちょっとくらいの差だしな」
「だから……もっと臭うようにしてやるか!」
ズブリ、とミニドラゴンの腿に剣を突き刺した。
「ピーーーーーー!」
悲痛な鳴き声をあげ、血を流すミニドラゴン。
「へっ、雑魚い竜でもこうすりゃ魔力の臭いが出るだろ。ほらつられてやってこいよジジイの蜘蛛さんよぉ!」
ガサガサ。
まるで答えるかのように、彼らの頭上の木の葉が音を立てた。
「おい、これって」
「へへ、マジで来やがっ……!?」
すぅ、と木の上から下りてきたのは蜘蛛だった。
否、人だった。
蜘蛛であり人だった。
「ちっ、違う! ギガントスパイダーじゃない!?」
「なんだこのモンスター! 見たことねぇぞ!」
「はっ! 似たようなもんだろ! ぶっ殺して糸剥いでやるよ!」
長髪の冒険者が上半身が青肌の妖艶な女、下半身が蜘蛛のモンスターに、剣を持って斬りかかる。
ギガントスパイダー程度なら楽勝の実力を持っている彼はこの森のモンスター程度なら勝てると自信を持っていた。
過信していた。
冒険者が切りつけた剣は、蜘蛛女の肌に触れることすらなかった。
そのモンスターの足の一本に、キィンという硬質な音とともに防がれたのだ。
「なんだとっ……あ?」
蜘蛛女が口に手を当ててふぅと吹き、男に向かって糸を吐き出した。
腕の上から糸が巻き付き、冒険者の体を締め上げる。
「がっ……放しっ……やが……馬鹿力……かはっ」
糸の強さは尋常ではなく、体を離れても蜘蛛女の体の一部であるように動き、冒険者の骨が軋むほどに締め付けていた。冒険者はもがくが身じろぎすらとれない。
動けない冒険者に向かって、くすくすと笑いながら近付く蜘蛛女。
冒険者の頬を撫でると、下半身の蜘蛛の頭から牙が伸び、冒険者の腹に突き立てた。
「ぐっ……ぎいいぃぃ……ぃがぁあああああ……ぁぁ……」
あっという間に男の体がぐずぐずに変色し崩れていく。
「うっ……うわあああああ! マックスが! マックスが溶けてる!? に、逃げ……!」
獲物を溶かし体液を捕食する様子に恐慌状態に陥る仲間の冒険者たち。
ぬかるんだ地面に足を取られ転がるように逃げ出していく。
だが、それは許されなかった。
長髪の冒険者と同じく糸に絡め取られ、動けなくなったところを一人ずつ溶かされながら捕食されていく。
三人を平らげたモンスターは最後に、吊るされた竜の子に目を付け、口が裂けんばかりに微笑み犬歯を覗かせた。
さあ、もっとも芳醇な魔力を持つメインディッシュの番だ。
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