記憶をたぐる?
レラちゃんが前世の自分を探したいと言い出して、オレも昴も困った。
だってルカのあの話しぶりだと……。
『人というのはやたら死に方にこだわるな』
こだわるっていうか……。
「酷い目に遭って死んじゃったかもしれないだろ……」
そもそもレラちゃんの魂はすぐに転生したのかとか色々考えてしまう。
『そうだな』
「なぁ、ハクジ」
『なんだ』
ハクジのもふもふに埋もれて顔をぐりぐりする。
「悲惨な最期を迎えた人って、魂に影響あんの?」
『望まぬ死を迎えた場合は大抵未練が残る。その未練によっては生前良い人間であっても悪しきものになり果てることもある。だからこそそうならぬように弔うのだが、あの飯綱は弔われておらぬのに、魂に穢れがない。稀有だ』
「ルカも神成りに近いみたいなこと言ってたな」
神成りが近い魂ってどんななんだろ?
穢れがないって聞いて思ったのは、透明に近いのかな、だった。
『幼い言動をするようで、成熟した面も持ち合わせておる。複数の魂が入り込んだのかとも思ぅたのだがな、その複数の魂が全て穢れがないのはありえん』
複数の魂が入り込むのはありえる気もする。アイツら別のを食うし。
でも、穢れのない魂が他の穢れのない魂を食うのは理解できない。だから魂は一つなんだろうと思うんだけど。
「魂を食うって、罪になるのか?」
『意に沿わぬものならな』
それもそうか。食われたいなんて普通思わないだろうしなー。
「そういえばじぃちゃん家行った時、地縛霊祓ったじゃん。あの時の神様達ってどうなったの?」
近くの神社で祀ってもらうとかじぃちゃんは言ってたけど。
『全て我と一つになった』
「えっ!?」
食べちゃったの!?
『我と一つになることを望んだ故な』
「……そういうのもアリなの?」
『神として在るには力が足りず、かといって他のものにもなることもできなければ、消滅するか、他の神と混じり合うか、穢れとなり果てるか』
「神様が力をつけるにはどうすんの?」
『信仰心だ』
信仰してくれる人間がいなくなったら力弱まるってこと……?
ハクジは犬上家の皆が信仰してるから強い? でも祈るって言ったら嫌がられたし……。
「オレ、頑張って結婚するね!」
犬上家の血筋を絶やさないようにしないと、ハクジが!
『何を言っておるのだ、そなたは……』
ハクジが呆れた顔をする。
『我は信仰心など必要としていない。そなたが転生をするからここに在るだけだ。そなたが転生を止めるならそれまで』
「ハクジは弱ったりしないのか?」
『犬上家が続く限りは安泰だろう』
ほらやっぱり! オレ、頑張って結婚できるようにならないとじゃないか!
母さんが料理をするようになったオレに、これなら結婚してくれる人が現れるかもね、なんて言っていたし、Z世代のオレ達は家事が出来ることがスタートラインっぽい。
『犬上家が我を祀らなくなったとしても構わぬ』
「えっ、弱っちゃうんでしょ?」
駄目じゃん!
『現世に現れるならばな』
……あー、そういうこと?
っていうか何でオレはビビりなくせに毎回転生すんのかなーもー。
『そなたが現世に転生するならば力はあったほうが良い。だがそなたが転生しないのであれば不要。それだけのことだ。そもそも神成りもどうでも良いことであった』
「……なんかその言い方だと、オレのために神成りしたって言ってるみたいに聞こえるんだけど」
『そう言っておる』
ちょっともー! ギュンギュンするから止めて!
『我は妖力の溜まりより生まれ出で、彷徨う中でそなたと巡り逢うた。そなたはいつものように追われておったがな』
やっぱり!
『祓ってやったところ、感謝どころか我に付き纏うようになった』
「えっ、なんかごめん」
死活問題だったんだろうけど、いくらなんでも前世のオレ、遠慮しようよ。
『我も何かの目的のために生み出されたわけでもなく、何の目的もなく在ったからな、暇つぶしにそなたに付き合ってやった』
暇つぶし!
ちょっとショックだけど、ありがとう!
『そうしてそなたを守るうちに霊格が上がり、神成りを果たした』
……オレ、襲われすぎじゃない……?
脱力してハクジに寄りかかる。
「オレってハクジに迷惑しかかけてないのなー。なんだかなぁ」
『別に構わん』
「駄目だろ、なんか恩返しさせてよ」
『要らん』
「なんでだよー」
もしかして!
がばっと起き上がってハクジの顔を両手で挟む。
「オレでは叶えられそうにない願いってこと!?」
『そうではない。そなたに望むことはただ一つ。そなたが今生を無事に過ごせばそれで良い』
他の神様って、ルカしか知らないけど、神様ってやっぱ徳が高すぎない?
生まれ変わるたびにオレのことを守ってくれてさ、オレの子孫というかご先祖様というか、を犬神としてくれて一族を守ってくれてるわけだし。
「オレが強くなるのは無理なの?」
『それ以上強くなってどうする』
ハクジが言ってるのは霊感のほうだと思う。
「そうじゃなくて、ハクジがいなくても──やっぱなしで!」
『だから不要だと言っておるだろう』
そうなんだけど、そうなんだけどさー!
「オレだってハクジに何かしたいの!」
必死に訴えてるのに呆れ顔された。ハクジ酷い。
──おまえ、名前は何ていうんだ?
──名なぞない。不要だ。
──必要だよ、オレが呼ぶ時困るだろう。
──ならば好きに呼べ。
──……うーん…………見たことないけど、唐渡りの美しい陶器がおまえの毛と同じで真っ白らしいんだ。だからおまえの名前は今日からハクジだ。
──勝手にしろ。
──なぁなぁハクジ。
──……なんだ。
──これからは一人と一匹だな、これでお互いに寂しくないな。
──我は侘しいなどと感じたことはない。
──そうか? じゃあ寂しがりやのオレのそばにいてくれよ。
──我に何の得がある。
──ないな! だが一緒にいればきっと良いことがあるぞ! 少なくともオレには良いことだらけだ!
──そなたしか得がないではないか。
──まぁまぁ、そのうち良いことあるって! たぶん!




