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食べもので遊んじゃだめー

 ルカちゃんの話を聞いてから、ご主人がちょっと困った顔をするようになった。

 ご主人は私の前世、つまり遺体をどう探せばいいのか悩んでいるんじゃないかなーって思う。

 思わず前世の自分を探したいって言っちゃったけど、どう探せばいいのか分からないな?


『ご主人』

「ん? おなか空いた?」


 この姿になってからおなかが空くことはないのだ。食べるし味わえるけど。人間用に作られたものは今の身体だと大きく感じる。ポテチとかポッキーとかアーモンドチョコとか、全部大きくて楽しい。


『スーパー、行く?』

「そうだね、行こうか」


 悠里くんがご主人を見習って料理を始めたのもあって、ご主人は更に料理を真面目にやるようになった。実はご主人、負けず嫌いなんじゃないかなって思う。

 冷蔵庫の中の素材を確認してから、私に手を差し出す。腕を伝って肩にのり、首の周りに巻き付く。普通のもふもふだと暑くなりそうだけど、私やハクジさまは厳密には実体ではないから、暑くならないんだって。でも触れる人にはもふもふらしい。


 霊感にも見える人、聞こえる人、触れる人、存在を感じる人、と色々あるんだって。悠里くんは見えるし聞こえるし触れる人。ご主人は見える(透けてるけど)、聞こえる、触れる。

 悠里くんには及ばないけど、ご主人もなかなかの霊力(?)を持ってる。悠里くんはあのハクジさまのご主人だし、ご主人の隣で話を聞いてる感じ、何度も転生してる霊力カンスト人間っぽい。

 ハクジさまほどにはいかなくても、私も前世の自分を見つけて強くなってご主人を守るんだー!


 近所のスーパーに到着。

 小さい子が私を見て指を差す。


「あーっ! ママ、へんなの乗ってる!」


 変なの呼ばわり酷い。オコジョだぞ!(違う)


「こらっ、指差さないの! それに何もいないでしょ!」


 気付かない子のほうが多いけど、子供が不思議なもの見えるって本当なんだなー。やっぱり霊感って先天性なんだろうな。今は見える子達も、大人になって見えなくなるのかなー?

 

 ちなみに指差されてもご主人はスルー。チラッとは見るけど。本当なら子供に教えてあげたほうがいいんだろうけど、難しいなって思う。ご主人には同じように霊感のある光のお兄さんがいるから、そういったものを否定されずにこれたんだと思う。 

 君が見えるものは他の人には見えないものだから、見えるって言っても信じてもらえないんだよ、って言葉を理解できるのって何歳からだろう? そう考えると声かけられないよね。難しい問題です。


『レラ、見つかった』

「可愛いからね」


 野菜コーナーを通るご主人に、鼻でつんつんする。


「どうした?」

『ご主人、アレ』


 私の視線の先には豆苗。一度刈り取った(?)後、また伸びるってテレビでやってた。やってみたい!


「豆苗か。にんにく炒め美味しいよね」

『美味しい、好き』


 そう言ってご主人は豆苗を買い物カゴに入れた。やった! ハサミなら持てるかな?


「レラと会ってから一度も作ったことがないから、その美味しいという記憶は前世のものなんだろうね」


 そうかも。


「レラは怖くないの?」

『怖い?』

「ルカの話のとおりなら、レラは誰にも弔ってもらってないってことになるでしょ」


 あ、それのことか。

 確かにびっくりはした。


『びっくりした。でも怖くない』


 死に水をとる、という言葉は知ってる。

 でもそうするとどうなるのかは知らない。


「亡くなる瞬間を覚えてる?」

『覚えてない』


 何かをきっかけに思い出したりすることはあるけど、それはなんというか、知識として知ってるといった感じで、感情が伴わないというか。


「もしかしたら、酷い最期かもしれないよ?」


 ご主人は私に辛い思いをさせたくないから、こんな悲しそうな顔をしてるんだろうな。自分のことじゃないのに、優しい。悠里くんもそう。優しい。

 二人はなんとなく、似てる。性格がとかじゃなくて、どこかおっとりしてるっていうか。私の記憶にある中二はもっと、男子! って感じだ。気になる女子の気を引きたくてちょっかい出して、相手には嫌がらせとしか思われてなくて嫌われてるとか、なんでも恋愛に結びつけちゃうとか、モテに固執するとか。はっきりいうと幼い。そんなイメージ。

 だけどご主人と悠里くんはそうじゃない。Z世代だから? とも思ったけど、やっぱり個としてそうなんだろうなと感じる。


『んー、見たら泣く、かも』


 場合によっては衝撃を受けると思うし、その時の感情が蘇ったりするのかもしれない。でもなんていうか、ルカちゃんが私の中に邪なものがないって言ったから、悲惨な最期だったとしても耐えられたりするんじゃないかなとか、かなり楽観的に捉えてる。


 ご主人が困った顔になる。


『でも、それも大事と思う』


 凄惨な死に方をしたかもしれない自分の最期。想像もつかない。知らないほうがいいかもしれない。後悔するのかも。

 ルカちゃんの言葉だけじゃなく、どこか他人事のように思ってるのは実感がないからなのか、人ではないものになったからなのかは分からない。


『今のレラ、前のレラ、自分でくよーできる』


 幸運(?)なことに自分で自分を弔うという、大変レアな謎チャンス到来。


「……そうだね。オレもしていい?」

『うん、ご主人ありがと』


 竹輪を見つけて、トンネルごっこしたいと言ったらご主人に食べ物で遊んじゃ駄目って叱られた。正論。ごめんなさい。


『竹輪の磯部炒め、好きだった』

「竹輪の磯部炒め」


 ご主人はスマホでレシピを調べたらしく、「簡単で美味しそうだし、悠里にも教えてやれそう」と言って、竹輪も買い物カゴに入れた。

(磯部炒め作る前に、一回だけトンネルごっこというか、望遠鏡みたいに覗かせてくれた)


 やってみたかったんだ、トンネルごっこ。お友達と。

 できなかったけど。

 でも大好きなご主人とやれた! 嬉しい!


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