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犬神祭り〈後編〉

 えぇーーーー……なにアレぇ……。

 絶句するオレの横で純がうげっ、と声を出す。

 

「夏休み前よりデカくなってる」

 

 遠目に見ても分かる巨大さ。全身ぐるぐる巻きの包帯。その隙間からなんかうにょうにょ出てるし、ナタみたいな凶器持ってるし、腕四本だし、でも目が一つ目だし、回れ右したい。帰りたい。

 

『そなたはそこにいろ』

 

 ハクジはイタグレを見ると、『守れ』とだけ言って走り出した。近付いてくるハクジに地縛霊は早々に気付いて、うにょうにょがハクジに襲いかかる。でもハクジに触れる前にバチッと激しい音をさせてうにょうにょの先が消える。

 

「すっげー……」

「まぁな」

 

 うちのハクジは最強なので。

 とはいえ不安。ハラハラする。絶対倒すの分かってるけど怪我したらどうしよう。犬神の怪我ってどこで治すの? 動物病院無理だよね?

 

「オレのハヤテだとあの触手弾くので精一杯なんだよ。ハクジ様、焼いてるよな、アレ」

「たぶん」

「あの触手をさ、ハヤテが切り落としたことあんだけど、アイツ食ったんだよ」

「教えてくれなくていいから!」

 

 再生するうにょうにょを切り落とすんじゃなく焼いてるのはその所為か。

 ハクジはうにょうにょの攻撃を避けつつも、焼きながら本体に近付く。そうこうしてる間にも別の悪霊達がオレ達を狙ってくるのどうにかして。ハヤテがやっつけてくれてるけど。

 

「さすが悠里だな、寄ってくる量がいつもの数倍なんだけど」

「これ通常な」

「マジか、死ぬな」

「それよ」

 

 ここに来る前にスーパーに寄って、ファミリーパックのポテチとか煎餅とか飲み物を買って来た。

 地縛霊がいる場所が公園の真ん前で良かった。ベンチに座りながら待ってられるし。しかも公園なんて小さい子とか来るじゃん。地縛霊に呪われるとかかわいそすぎる。

 

「あー、やばい。腹減った」

 

 オレの空腹対策に買ったポテチの袋を、純が遠慮なく開ける。イタグレ ハヤテくん、フル稼働だもんな……。

 

「待て、ウェットティッシュで手を拭け」

「なんで持ってんの」

 

 レラちゃんとピヨちゃんのため、なんだけど説明面倒なので、色々あんだよ、と濁す。

 

「山ほど買って来て良かったな」

「おまえがな」

 

 ファミリーパックのポテチを黙々と食い続ける純。オレはまだ空腹になってない。残ったら持って帰って食えばいいやと思って興味ある奴を(父さんと真美おばさんがお金くれたのをいいことに)馬鹿みたいに買った。

 

「おまえいつも腹減らないの?」

「ハクジ強いから腹減らないんだよ」

「ガチ最強」

「オレのSSRを見よ」

 

 ハクジが地縛霊の周囲の悪霊を焼き尽くす。ゴオッという音ともに、オレの腹が鳴った。火力つえーって思ったけど、それだけの技なんだな。

 オレもポテチのファミリーパックを開ける。

 

「あれチャージ技だろ絶対、ダメなら19999くらいか」

「おまえなにやってんの」

「オレ? ドラⅩ」

「モンハンとかじゃなくて?」

「エルデンとかツシマもやったけど、ちょうど良いんだよ、ドラクエ」

「えー、オレもやろうかな」

 

 エルデンリングとゴーストオブツシマはオレもやった。ツシマはやりすぎて、誰かがドーシヨーって言うと笑っちゃうのやば。

 

「結構面倒なコンテンツあるけど、やろうぜ」

「誘い文句としてどうなんだよ、フォローするとか言えよ」

「オンゲなんか本人の持続力ねぇとやれねぇよ」

「それもそうか」

 

 ハクジとやれたらいいのになー。あ、昴を誘ってみるかな。

 ……と、オレと純が緊張感のない会話をしているそばで、ハクジが地縛霊の腕を切り落とした。吸収される前に腕が青い炎に焼き尽くされる。切り落とした瞬間に液体が本体からビシャって出たけど、きっと気の所為。

 

「ぅおー、テリヤキバーガー食いてー」

 

 すっげー腹が減る。

 異様だ。DC二人が公園のベンチで黙々とファミリーパックのポテチ食ってる姿。

 四本あった腕がまた一本切り落とされて消し炭になる。それからまた一本、最後の一本の腕も落ちた。

 地縛霊が怒号を上げる。ビリビリビリビリッと衝撃がこっちまで届いた。

 

「第二形態に進化すると見た」

「やめろ、フラグ立てんな」


 オレの願いも虚しく、地縛霊の身体から夥しい数の腕が出た。頭もなんか増えたし。頭を埋め尽くすみたいに目が出て来たし。グロい! キモい! それなのに腹減ってるから食べなきゃならん。なにこの苦行。しんど。でもハクジが戦ってるんだから、ハクジのためにも食わねば!

 

「いやー、本当に進化するとは」

 

 死んだ魚のような目で純が言う。

 

「ハクジをこんなにてこずらせる奴初めて見たわ」

 

 オレの感情論で嫌だと言ったけど、来てよかった。でもできるなら二度と来たくない。オレ自身は無傷だけどさ、見てるだけでキモいし怖いしグロいしハクジが心配でハラハラするし。

 

「おい、悠里」

「おぅ、分かる」

 

 ハクジの身体が発光してる。アレ絶対デカいのやる気だと思う。

 

「迎えに来てと連絡しとく」

「頼む。とりあえずオレは食うわ」

 

 できる限り食わねば。

 

 カッとハクジが光った瞬間、何本もの雷が地縛霊目掛けて落ちて、煙のようなものが出てる。

 

「あああああ、ポテチじゃ足りない。ばぁちゃんにおにぎり握ってもらえば良かった……」

 

 信じらんないことに、地縛霊まだ生きて(?)んの。どうなってんだよ! いや、なんかもう大分弱ってるのは見ていて分かる。だって雷十回以上当たってたし。

 ハクジが小さな竜巻みたいなものを起こして、地縛霊は竜巻に巻き上げられた。中で何が起きたのかは見えなかったけど、竜巻が消えたあと、バラッバラになった身体がボタボタと落ちたから、切り刻まれたんですね、分かります状態だった。そのバラバラになった地縛霊は、最後に盛大に焼き尽くされ、黒いモヤすら残さず絶叫と共に跡形もなく消えた。

 オレはそこでベンチに横になった。もう無理。なんか最後のでごっそり持ってかれた。




 迎えに来てくれた車に乗り、じぃちゃんばぁちゃんの家に帰る。

 車に乗り込んだオレのそばにハクジが寄り添った。

 

「ハクジ、怪我は?」


 それだけが心配だった。

 

『あるわけがなかろう。それより食え』

「食ったけどこれじゃ足りない。ってかアイツ、強かったんだ」

『まぁそれなりにな。強さがというよりタチの悪いものでただ叩きのめせば良いわけでもなくてな』

 

 ハクジに寄りかかりながらテリヤキバーガーを食うオレ。

 

『あの場所は事故がそもそも多いのだろう。食われたものだけでなく、いくつもの悪霊が融合して、あともう少し遅ければ呪を吐く祟り神になったであろう』

 

 祟り神! もの◯け姫か!

 

『力ある神が堕ちたものに比べれば祟りは弱いだろうが、核が出来ておればもっと時間がかかったろうな』

「口では軽そうに言うけど、オレの霊力ごっそり持ってくぐらいは強かったんだろ?」

『あぁ、アレか。神であったもの達がいくつも取り込まれておったからな、それらを解放するのには確かに力を使った』

 

 え、神であったもの?

 

「神であったものってなに?」

『信仰心によって神は力を得るからな。忘れ去られて力を失ったとしても一度は神成りをした存在というのはそれだけで別格なのだ。それと悪霊が融合すれば祟り神となる』

「そうなったらどうなんの?」

『神格を持つ者が祓うしかないが、神は基本的に己が領域から出んからな』

 

 つまり祟り神のやりたい放題、と。

 

『祟り神を祀っておる神社はそれなりにあるのだぞ』

「え、そうなの?」

『表向きの祭神は別でもな、そのうちの一つに入っていたりする』

「なんで?」

『主神にその祟り神を抑えてもらおうと思ってのことだろう』

「あぁ、なるほど」

 

 色々あるんだな。

 

 じぃちゃん家に着いたら、たっぷりの肉が用意されていた。

 

「おかえり、悠里。腹減ったろ、食え食え」

「食う。ありがと。でもこんなに食えないよ?」

「若いもんが何言っとる。ほら純も食え」

「やったー!」

 

 食えないとか言いつつ、オレと純でぺろりと食べてしまった。思った以上に腹が減っていたらしい。

 

「そういえばさ、ハクジ」

『なんだ』

「神様だったものって、助けたあとどうしたの?」

『連れてきて庭の祠に入れた』

 

 いやそんな、物を片付けるみたいな言い方。

 

「近くの神社でお祀りしてもらうから心配すんな」

 

 じぃちゃんの言葉にほっとした。

 

「近くの神社って誰を祀ってんの?」

「ハクジ様だ」

『主神は素戔嗚尊とする神社だ』

 

 なんか色々ツッコミたい気もするけど、まぁいいや。

 

「寿命縮んだ」

『この程度で縮むわけなかろう』

「縮むよ。ハクジに何かあったらと思うと気が気じゃない」

 

 肉球パンチを鼻にくらう。良い匂いだし、柔らかい。

 

『お前は本当に変わらんな』

 

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― 新着の感想 ―
いくら強くても心配してくれる悠里にハクジにっこりですね。よかったねえハクジ。変わらないって嬉しいねえ。 犬上家、性別問わず伴侶を大事にするし、親戚の集まりはドッグカフェだしで、めちゃくちゃ羨ましいよ…
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